It always seems impossible until it’s done.
米ローカル局はストリーミング時代にどう生きるのか?

米ローカル局はストリーミング時代にどう生きるのか?

Inter BEE logo数年ぶりですが「Inter BEE 2023」に行ってきました。Inter BEE全体としては、映像・音響用のプロ機材、バーチャルプロダクションの最先端テクノロジーなど、私には門外漢な領域も多いのですが、今回は興味のあるトークセッションが日を跨いでいくつかありました。千葉への一人旅がてら、宿泊もして3日間通しでの参加です。Inter BEEに関するレポートなどは、おそらく各所から詳しい良いまとめが出ると思われますので、私が参加してきた主なセッションのタイトルだけを下記にご紹介しておきます。この他にも、事前予約が取れなかったセッションで、会場の外から立ち見などで聴講したものもありましたが、それは割愛します。見逃したセッションも含め、後日アーカイブ視聴ができるそうですので、あらためて勉強したいと思います。

  • ドラマの未来を変える、広告とデータアナリティクス
  • 視聴=聴取データから見える「放送とネット」のユーザー動線
  • ローカル局社長が語る地域メディアの“未来ビジョン”
  • ローカル局の地域課題解決ビジネス〜地域の声が未来を紡ぐ〜
  • FAST・CTVの海外最新動向と日本のリアル
  • 配信サービスはVODの次に進むか

今年のInter BEEに参加するにあたり、私の勉強テーマは「FAST*1」「ストリーミング」「視聴データ」、そして「ローカル局」としました。というのも、2023年9月にTVREV*2が発表した新たなレポート「米ローカル放送『ストリーミング時代の危機と期待』」を読み、米ローカルテレビ局(以下、ローカル局)のストリーミング動向には非常に興味を持っていたからです。では、日本国内はどうなっているのだろうか?と。レポートはTVREVのサイトなどから入手可能です。今回のプログラBLOGは、このレポートから特に気になったポイントをご紹介します。
*1 Free Ad-supported Streaming TV(広告付き無料ストリーミングTV)
*2 ロサンゼルスで2015年に設立されたテレビおよびメディアに関する少数精鋭のアナリストグループ。「FAST」という言葉の生みの親。プログラBLOG「FASTを知る〜広告付き無料ストリーミングTVとは」の中でも詳細にご紹介している。

 

米ローカル放送「ストリーミング時代の危機と期待」

Source: TVREV “Local TV: Perils & Promise In The Age Of Streaming”(Sep.14,2023) 

なぜ、ストリーミングがローカル局にとっての「可能性」であるかを解説したレポート

TVREVのこの新しいレポートは、ストリーミングがローカル局にもたらす「可能性」を危機と期待の両面から分析しています。では、それは何なのでしょうか。レポートでは、米国のローカル局は未だ健在で、ストリーミング視聴へのシフト対策を整えてきていると分析しています。また、あらゆる年齢層や所得層に行った視聴者調査(調査結果を文末で紹介)ではローカルメディア、特に「ローカルニュース」には視聴者は根強い思い入れがあることが明らかになったとしています。そして、2024年に行われる大統領選挙では、ハイパーローカル・ターゲティング(超地域密着型ターゲティング)として活用されるローカル局にとっては、「追い風」となるだろうとも伝えています。

 

TVREVレポート

概要

米国のローカル局は特殊な存在
米国のローカル局は、1941年にFCC(連邦通信委員会)の裁定により、1つのネットワークが所有できるテレビ局の数を制限する形で運営されてきました。その後、いくつかの改訂も行われていますが、大多数のローカル局がネットワークから独立した存在、運営であるためにストリーミングへの対応も個々に異なっています。現在、ローカル放送は局ごとにストリーミング配信、ビッグデータを用いたターゲット広告、新たな視聴者の獲得などに取り組んでいます。

米国のテレビ局は1,758局
米国には、1,374の商業テレビ局(VHF378、UHF996)と384の教育・非商業テレビ局(VHF119、UHF256)を合わせて、1,758局*1のテレビ局が存在しており、それらは210のDMA*2(指定市場地域)に分類されています。そのうちのO&O(Owned-and-Operated station)と呼ばれる「所有と運営」が一体化した形で大手ネットワークが保有しているのは、ABC8局、CBS15局、FOX29局、NBC12局のみです。残りのほとんどは、ネットワークと系列契約は結んでいても、あくまでも独立経営(独立局)となっています。
*1 2021年3月時点
*2 ニールセンが区分しているローカル視聴測定の地域区分。日本国内に例えるなら全国を32区分する放送エリア。

そして、それらの独立局は、米国の複数市場でローカル局を所有するいくつかのグループに分類されます。Nexstar(116市場)、Gray(113市場)、TEGNA(51市場)、Sinclair(85市場)、Scripps(76市場)、Hearst(27市場)などが最大手グループです。Nielsenの調査によるとOTA(Over-the-Air/アンテナ経由)でテレビ視聴しているのは全米世帯の15%程度で、残りの約85%はMVPD経由となっています。MVPDは、テレビ局やネットワークに「再送信料」(再放送料)を年間数百万ドル支払っているといわれていますが、この再送信料が近年のコードカット(有料ケーブルテレビ契約の解約)によって大幅に減少してきています。
*Multichannel Video Programming Distributor(従来の有料ケーブルテレビ)

ストリーミング視聴への移行は、テレビ視聴と広告収入の低下をもたらし、ローカル局はストリーミングでのリーチ拡大を目指しています。ローカル放送の未来は、ストリーミングの進展、広告のローカライゼーション、放送コンテンツの進化に依存し、このレポートではこれらの動向と将来のシナリオを探求しています。ストリーミングにおいて、ローカル放送は未開の市場であり、新たな可能性を持っています。

 

ストリーミングでのローカル放送

ストリーミングへの対応が遅れたローカル局
ローカル局はストリーミングの対応に遅れました。しかし、それは何もして来なかったという訳ではなく、高コストと需要の不確実性、広告主の懐疑的な態度が、ストリーミングへのシフトを困難にさせました。多くのローカル局は、SlingHulu Live TVなどのvMVPD経由でストリーミング市場に参入しました。というのも、vMVPDは、地域毎に加入者を獲得するためにローカル局のコンテンツを必要としていましたし、ローカル局もコードカットで離れていく視聴者との接点を保つために、vMVPDは従来の延長線上にあると考えていたからです。したがって、当初はMVPDとvMVPDは、同じ時間帯に同じ番組を放送していました。しかし、考えていたよりも早く、視聴者はローカル局のコンテンツから離れていき、それまでと同じような視聴者数を維持できなくなっていきました。
*Virtual Multichannel Video Programming Distributor(インターネットを利用した有料テレビ)

現在、ローカル局は、エリアターゲティングが可能な広告付きストリーミングサービスを通じて視聴者層を拡大し、ZIPコードやZIP+4クラスターによる、より精密な広告戦略の展開を可能にしています。当初、ストリーミングコンテンツの多くはUGCでしたが、広告主の多くはプレミアムコンテンツへの広告掲載を求めていたからです。ローカル局にとって、質の高いプレミアムコンテンツを提供し、ブランド価値を高めることは広告主を惹きつける鍵となっています。
*User-generated content(ユーザー生成コンテンツ)

インクルメンタルリーチ
インクリメンタルリーチの概念は、リニアTVとストリーミングの組み合わせを通じて、従来のテレビだけでは見逃された視聴者にもリーチする新たな戦略です。ストリーミングの台頭により視聴者は分散し、テレビ局は高度なアルゴリズムを用いてターゲット視聴者に効果的にアプローチする必要があります。この新しいアプローチは、リニアTVとストリーミングの相互補完的な関係を強化しますが、将来的にはストリーミングが主流(リニアが補完)の視聴形態となる可能性があるでしょう。

同様にローカルテレビ放送(以下、ローカル放送)業界も、ストリーミング時代の課題に対処し、新しいビジネスモデルと技術を採用することで、進化し続ける必要があります。これには、広告のカスタマイズ、視聴者の行動理解、およびプレミアムコンテンツの提供が含まれます。ローカル放送はストリーミング時代の要求に応えるために、より動的で柔軟なアプローチが求められます。

 

ローカルニュース事業はストリーミングへ

ローカルニュースはローカル放送の糧
「ローカルニュース」はローカル放送にとって非常に重要です。多くの地域でニュースキャスターは地元の有名人であり、視聴者はお気に入りのローカルチャンネルを持っています。新聞産業の衰退により、ローカルニュースは地域の重要情報の主要な情報源となっています。ストリーミングサービスもこれに気づいており、HaystackLocalNowなどのアプリを通じて、様々な市場のローカルニュースを集約する動きが見られます。FoxやCBSなどの大手ネットワークも独自のローカルニュースのストリーミングを開始しており、視聴者ニーズに応えようとしています。

しかし、ローカル局は再送信料に依存しているため、完全にストリーミングへ移行することには躊躇しています。一方で、FASTなどにおいて第2のニュース部門を構築し、異なる形で視聴者にサービスを提供しようとも試みています。ストリーミングでのニュースの課題には、24時間運用する必要性や、関連するコンテンツ量を充実させるため使用されるフィラー(つなぎ映像)などが質の低下につながる可能性があります。

視聴調査によると、全年齢層の中でも、特に高齢層がリニアTVでローカルニュースをまだまだ視聴している一方で、ストリーミングを通じてローカルニュースを視聴する人たちも増えています。これは、特に若年層において、ローカルニュースへのニーズは依然として高いことを示しています。また、ローカル局はシンジケーション番組を通じて差別化を図り、強力な視聴者基盤を構築してきています。このシフトは、ローカルニュース事業がストリーミングの時代に適応し、進化するメディア消費の潮流に対応する必要があることを示しています。

 

放送は永遠の存在

地上波放送を増加させる2つの要因
アメリカのテレビ産業は、これまで地上波放送からケーブルテレビへのシフトが顕著であり、2010年代初頭には有料ケーブルテレビの普及率は90%を超えていました。これは、広大な国土による放送受信の困難さが一因と考えられていました。しかし、地上波放送はデジタル化と画質の向上、デジネットの成長などにより再評価されています。Hub Researchによれば、アメリカの30%以上の視聴者がアンテナ経由(OTA)でテレビ視聴しています。そこには、貧困層やマイノリティなどの視聴者が多く含まれますが、これを業界的に無視してきていることは問題です。

デジネット(マルチキャスト、サブネット、サブチャンネル)は、メインのデジタルチャンネルに付随する追加チャンネルで、Ion TelevisionMeTVなどが成功を収めています。最近では、デジネットがFASTのリニアチャンネルとして展開される傾向があり、これは広告市場を拡大し、リニアTVとストリーミングの間のギャップを埋める可能性を秘めています。

ATSC3.0は、「次世代テレビ」として知られ、放送信号のデジタル配信を可能にするハイブリッド技術です。これは視聴者の特定やターゲット広告の配信を可能にしますが、プライバシーや公平性への懸念、後方互換性の欠如(テレビ端末を買い換える必要)などの課題もあります。多くのローカル局、特に独立系や小規模グループは、ATSC 3.0に関心を持ち、デジタル競合に対抗する手段と見なしていますが、普及は緩やかです。(以前ほど注目されていない模様)

新しいインフラ法案によるブロードバンドの普及は、特に地上波に依存していた地域に放送エリアを広げる可能性があり、ATSC3.0の必要性を薄れさせています。しかし、放送技術の冗長性と信頼性が、特に災害時に必要とされることから、放送ネットワークが消滅することはないという見方もあります。結局のところ、リニアTVとストリーミングの将来には複数の見解があり、ローカル放送は変化するメディア環境に適応し続ける必要があるでしょう。

 

ローカル広告

ローカルのテレビ広告は巨大市場
ローカルのテレビ広告市場は大きく、2023年にはリニアTVで150億〜200億ドル、ストリーミングで20億〜40億ドルと推定されています。2024年の大統領選挙を控え、ローカル広告の支出が増加することが予想されています。また、ローカル広告主は、投資に見合った価値を求めており、ストリーミング広告の導入に関心を持っています。主なローカル広告主にはカーディーラー、レストラン、小売店などがあり、地域に根ざしたキャンペーンを展開しています。大市場では外部の広告会社が、小市場ではローカル局自体が広告を制作することが多くなっています。

ストリーミングの普及により、ローカルのテレビ視聴が変化していることに対応し、多くのテレビ局はストリーミングプラットフォームでの広告展開に力を入れています。例えばTEGNAのPremionは、プレミアムストリーミングコンテンツでの広告提供を通じて視聴者にリーチしています。ストリーミングの利点は、地域を超えたキャンペーン展開とターゲティングの強化にあります。ローカル局は、その地域に密着した関係を活かし、ローカルマーケットのダイナミクスを理解することで競合に優位性を持っています。

ストリーミング広告の販売に関しては、独立系テレビ局やグループも市場の変化に対応し、より広範囲な視聴者にリーチするための戦略を練っています。ローカル広告は人間関係が重要であり、ローカルコミュニティに根ざした広告主との長期的な関係が成功の鍵となっています。ローカル局は、地域に対する深い理解と長年の関係を生かし、ストリーミング時代の広告市場でも重要な役割を果たしています。

リニアレップファーム
ローカル放送への広告投資は、ナショナルブランドにとっても重要なセグメントです。リニアレップファーム、例えばKatz MediaLocalityは、全国の広告主にローカル放送の広告枠を提供し、ローカル市場へのリーチを拡大しています。ストリーミング広告プラットフォーム、特にPremionなどは、ローカル局がブランドの安全性を確保できるプレミアムコンテンツを視聴者に提供することを助けます。特に若年層がリニアTVを見る頻度が減少する中で、ローカル広告主にとっての価値を高めています。広告主は、ストリーミングのプレミアムコンテンツを通じてターゲット視聴者を見つけることができ、ストリーミングの購入のほとんどがプログラマティックであるため、アドテク企業との提携を通じて購入の価値と効率を高めています。

政治広告は、ローカル放送の広告収入の中で大きく、特に大統領選挙や議会選挙の年には支出が増加します。ストリーミングの台頭により、政治広告は地域により細かくターゲットを絞ったキャンペーンを展開することが可能になり、CTVは政治広告費の増加に大きく貢献しています。ローカル局の広告営業チームは、地域コミュニティとの長年の関係を活かし、変化するメディア環境の中で重要な役割を担い続けています。次の選挙では、ストリーミングがニュースの主要なソースとなり、ローカルレベルでの政治広告の重要性を維持しながら、全国レベルでのキャンペーンと組み合わせて効果的なメッセージングを行うことが期待されています。

 

ローカル放送のリニアTVとストリーミング統合測定

リニアTVとストリーミングの統合測定は、特にローカル放送で複雑であることが明らかになっています。リニアTVとストリーミングのプラットフォーム間での統合測定基準の欠如は、広告収益化に影響を与えています。広告主とテレビ局は「インプレッションの定義」をはじめとするクロスプラットフォームの指標を定める必要があります。ニールセンによる従来の方法は、少数のサンプル世帯に依存しており、特にローカル市場での正確な視聴率の測定に困難をきたしています。

また、Comscoreのセットトップボックス(STB)データを取り入れたものの、コードカッターの増加により、これも十分ではなくなる可能性があります。デジネットやヒスパニック系の視聴者など、一部の視聴層は測定から漏れていると考えられています。新しい測定手法では、スマートTVのACR(自動コンテンツ認識)データを利用し、リニアTVとストリーミングの視聴を正確に把握しています。これにより、実際に視聴されているコンテンツを正確に測定することが可能になるでしょう。

CCR Mediaなどの企業は、様々な配信チャンネルを通じてコンテンツを効果的にモニターし、シームレスな視聴体験を提供しつつ、広告主に対して精度の高い測定結果を提供することを目指しています。ローカル広告主にとっての課題は、ストリーミング投資からどれだけのインクリメンタルリーチを獲得できるか、リニア投資の結果がストリーミングにどう反映されるかを理解することです。

リニアTVとストリーミングの統合測定には、広告主がメディアプランを適切に調整し、マーケティングミックスモデリング(MMM)を最適化するための明確な基準が必要です。テレビ業界は、ローカルレベルでの複雑な配信環境をナビゲートし、リニアTVとストリーミングの両面でニーズに対応するための新しい戦略を模索し続けています。

 

ローカル放送の未来

ローカル放送の未来は、テレビ業界でも熱い議論
ローカル放送の未来には、大手ネットワークの不透明性や、デジタル化の進展による潜在的な課題も含まれます。DisneyはABCなどのリニアTVネットワークの売却を検討しており、ローカル放送の将来に影響を与える可能性があります。ローカル放送は地域的なニーズに特化し、デジタルメディアと統合して地域文化の再生を支える可能性があります。

リニアTVネットワークの売却が検討される中で、再送信契約を通じた収入は重要な要素であり、多くのテレビ局はこれらの収入源にまだ依存しています。デジタルへの移行やストリーミングの台頭は、放送の商業モデルに大きな変化をもたらしています。特にスポーツ放映権のストリーミング移行は、ローカル局の価値と収益モデルに影響を及ぼす可能性があります。

ニュースコンテンツは、ローカル放送にとって引き続き強力な資産であり、視聴者にとっても重要な情報源です。ローカルニュースは、地域社会において視聴者との結びつきを強化させます。

デジタル化の進展は、パーソナライゼーションとターゲティングの機会を高め、リニアTVとストリーミングの間でシームレスな体験を提供することで、ローカル放送の魅力を高めます。テレビ局はデジタルプラットフォームと連携し、データを利用して視聴者にカスタマイズされた広告とコンテンツを提供が求められます。

測定の精度はリニアTVとストリーミングの統合において重要な課題であり、ACRデータやIPアドレスに基づく視聴の測定が注目されています。プライバシー保護の強化とともに、精度の高い視聴データの提供は、広告収益の最適化に貢献します。

ローカル放送の未来は、デジタルメディアとの統合、高度なパーソナライゼーション、ターゲティング広告の展開、そしてリニアTVとストリーミングの測定基準の統一によって形成されるでしょう。この動向は、ローカル局と視聴者との接点を強化し、デジタルトランスフォーメーション(DX)の中で重要な役割を果たし続けることを示唆しています。

 

TVREVが考える、ローカル放送はどこに行き着くのか?

TVREVは、ローカル放送の未来について、ケーブルテレビの衰退とブロードバンドの普及が進む中でvMVPDとの契約が増加すると予測しています。大手MVPDは従来のリニアTVよりもストリーミングバンドルの販売を選ぶことになるでしょう。この変化に伴い、ローカル局は新しいストリーミング環境で重要な役割を果たすことになり、特にローカルニュースやローカル広告においてその価値を示します。

ローカル放送グループは自身のFASTサービスを立ち上げ、ローカルコンテンツの重要性を高めることができると考えられています。SinclairのSTIRRのように、独自のストリーミングアプリを持つローカル放送グループも出現し、MVPDはこれらのグループと提携して新しいバンドルサービスを提供する可能性があります。これにより、インターネット、ストリーミングのサブスクリプション、ローカルニュースを含む包括的なサービスが提供されます。

ローカルニュースはストリーミングでの重要性を維持し、さらに地域性やパーソナル化が進むと予想されます。ローカルレポーターは地域の出来事を深く掘り下げ、視聴者に密接なニュースを提供します。ローカル局は独自のFASTチャンネルを通じて24時間365日のコンテンツを提供し、特定の市場や地域に焦点を当てることができるようになります。

広告に関しては、ストリーミングの台頭により、ローカル局は広告主により精密なターゲティングオプションを提供できるようになります。ローカル広告主は、デジタルプラットフォームのように広告キャンペーンを効率的に管理できるようになります。このシフトは、ローカル放送とストリーミングの間で広告を効果的に融合させることを可能にし、より多くの広告主がテレビ広告に参入する機会を提供します。

最終的に、ローカル放送の未来は、デジタル化の進展、ストリーミングへの移行、そしてローカルコンテンツの強化によって形作られるでしょう。ローカル局は、ストリーミング時代においても、地域社会に対する関連性と影響力を維持し、新たなビジネスモデルを通じて進化し続けることが予想されます。

 

未来を見据えて

ローカル放送とストリーミング視聴習慣の調査から

TVREVは、Publishers Clearing House Consumer Insights(以下、PCH)およびEShapと共同で、ローカル放送とストリーミングの視聴習慣に関する調査を2023年6月に行っています。この調査はローカル放送の利用状況とローカルニュースの視聴実態、それらが年代別でどのような違いがあるかを把握することを目的としています。調査対象者はPCHの25歳以上の登録ユーザー60,000人以上から構成されており、大規模かつ信頼性の高いデータセットにより深いインサイトが得られたとしています。

調査結果には、TVREV曰く、予想通りだと思えたものもあれば、全くの予想外であったものも含まれる、とされています。米国のローカルメディアの現状と将来のトレンドを理解するだけでなく、日本国内の「ローカル局の未来」を考える上でも非常に役に立つ、重要なデータだと感じます。以下にご紹介します。

 

誰がローカル放送を見ているのか?

local fast

まず、調査対象となった25歳以上全体で見た場合、ローカル放送を「毎日見る」と回答したのは半数に満たない42%であった。「まったく見ない/ほとんど見ない」の合計は37%にまで達している。では、年代別ではどうだろうか。


local fast

高齢層は、依然としてローカル放送を見ている。65歳以上の約3分の2(63%)が「毎日見る」、13%は「週に2、3回見ている」と答えている。同様に55〜64歳でも52%が毎日、16%が週に2、3回見ている。若者層においても全てがローカル放送を捨てたわけではない。、たしかに、25〜34歳の55%は「まったく見ない」(30%)、あるいは「ほとんど見ない」(25%)と答えている。しかし、このミレニアル世代とZ世代が混在するこの世代では、21%はまだローカル放送を毎日見ており、14%は週に数回は見ている


local fast

今回の調査ではわかったことは、ローカル放送の視聴状況においては、所得レベルではあまり差はないということである。どのレベルの所得層も39〜44%は「毎日見ている」と回答している。

視聴頻度は所得差から生じるものではなく、明らかに年齢差(年代差)によって起こっている。特に45歳以上とそれ以下では、テレビ視聴習慣のあるなしが分かれる。ローカル局は、若年層に向けYouTubeやTikTokなどでライブ視聴できるクリップなどのオプションを検討する必要があるだろう。


 

ニュースはまだローカル放送の人気者

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ローカル放送を見ている人の中では、やはりニュースが最も広く見られているジャンルだった。そして、ローカルニュースの中で最も重要視されるのは天気予報であった。(下図)

65歳以上のニュース視聴比率は59%で、25~34歳(30%)のほぼ倍である。35歳以上ではスポーツも注目されるが、ローカルニュースほどの人気はない。ローカルニュースは依然として大きな魅力となっており、ローカル局もストリーミング対策の中心に据えている。

local fastまた、ローカル局でプライムタイムの番組を見ると答えたのは65歳以上では34%に過ぎなかった。理由のひとつは、視聴者はプライムタイムを放送する系列のローカル局ではなく、そのネットワークを連想していると考えられる。また、あらゆる年代でプライムタイムは別のプラットフォームで視聴している可能性もある。いずれにせよ、ローカル局はローカルニュースがなければ、完全にダメになるということだろう。


 

ストリーミング・ローカルニュース

local fast

予想していたことだが、高齢層はローカルニュースをストリーミングで視聴していない。逆に、若年層はローカルニュースもストリーミング視聴している(約3分の2)。しかし、様々なプラットフォームを利用していることもわかった。

高齢層のニュースのストリーミング視聴比率は低いが、実数で見ると多い。若年層と合わせればストリーミングによるローカルニュース市場は有望といえる。FASTでもローカルニュースが提供されるようになって日はまだ浅いが、ニュースジャンルは人気が高く、シェアは奪い合いになっている。


 

ローカル新聞

local fast悲しい結果であるが、回答者の87%はすでにローカル新聞は購読しておらず、無料アプリや新聞のウェブサイトやアプリの無料記事からニュースを入手している。

これは明らかに、人々が購読する価値を見いだせなくなるほどにコンテンツを無料で提供してきた、印刷メディアが犯した過ちの遺産である。テレビ業界が心に刻むべき教訓である。しかし、裏を返すと少なくとも地上波テレビは無料であり、無料のメディアには需要があるともいえる。


 

ローカルニュースの代替情報源は?

local fast若年層(25~34歳)は、ローカルニュースの情報源の大半(52%)をウェブサイトやアプリを利用しているが、高齢層(65歳以上)は、22%がまだローカル新聞に依存している。これは他の年齢層(15%~18%)よりも高い。ラジオは全年齢層で人気があり、65歳以上を除くすべての年齢層で2番目である。65歳以上のみローカル新聞に1%だが差をつけられ3番目となった。55~64歳の42%、65歳以上の38%は、代替情報源としてウェブサイトやアプリをすでに利用している。

local fastローカルニュースを入手する「十分な方法はある」と高齢者の69%は感じているが、年齢層が若くなるにつれて53%まで減少する。

ローカルのラジオ局は、今でもローカルニュースを伝える役割を果たしている。(テレビの)ローカル局は、コンテンツの追加ソースとしてラジオ局と提携するのは賢明かもしれない。AIプログラムは、ストリーミングやモバイルアプリで使用するために音声放送を動画変換するのにも役立つだろう。

ローカル局は、ストリーミングではニュース番組をもっと特化させることができるだろう。例えば、州や地域内の高齢者を対象とする幅広いものから、DMA内の特定の郡や地域だけに焦点を絞ったものなどである。ただ、デジタルメディアやソーシャルメディアを利用する視聴者は、情報を新聞やテレビのような昔ながらの情報源からのニュースと同等に見ている可能性がある。ニュースに対する信頼の低下や偽情報の拡散については、ビジネス上の課題も多く注意が必要である。

 

ローカル放送の必要性

local fast全体の35%は、ローカル局が閉鎖された場合、他の情報源からでも十分な情報を得られると思う、と答えた。逆に、27%が十分な情報を得られないと思う、と答えている。

しかし、最も多い回答が38%の「どう思うかわからない」だったことは予想外であった。


local fastローカル局がなくなり、ストリーミングアプリなどで視聴しなければならなくなった場合、高齢層(65歳以上)の60%、55~64歳の52%が「とても動揺する」と回答。一方、25~34歳の51%と35~44歳の46%は「まったく動揺しない」とも回答している。

しかし、ストリーミングでしかローカル局が見られないとしたら、25~34歳の28%が「とても/かなり怒る」と回答したことは想定外で、もっと低いだろうと予想されていた。

ローカル局のない未来を人々はあまり想像ができてないのだろう。しかし、若年層はテレビ番組が全てストリーミングに移行することを期待しているようにも見える。

今後、ミレニアル世代とZ世代が「世帯主」へとなっていく中、ニュースのパブリッシャーにとっては、コンテンツのストリーミング・プラットフォームへの移動は急務となってくる。ただ、ローカルニュースを提供するのはテレビ局だけではない。ComcastCharterのようなケーブル会社もローカルニュースチャンネルを提供しており、この取り組みには十分な投資も必要である。

 

ローカルニュースの好み

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朝のローカルニュースを「どのネットワークで見るのか」の回答については、ABCとFOXが23%と、NBC(22%)とCBS(21%)より僅かに優勢だったが、大きな差はなかった。

ローカルニュースを選ぶ主な理由として、天気予報が当たるか(32%)が、キャスターの好感度(23%)やスポーツ(11%)を大きく引き離している。

視聴者は、ローカルニュースにはさまざまな選択肢があることを好み、お気に入りのニュース番組(そして天気予報士なども)をストリーミングでも視聴することが期待できる。

local fastしかし、「その他」である11%は、提供するローカルニュースの質と結びついている可能性がある。この点については、次回の調査でもっと掘り下げる価値がある。

 


 

 

地域広告

local fast

全回答者の36%が、自分の住んでいる地域の人々をターゲットにした、全国的な広告主の広告を見たことがあるかどうかわからないと答え、24%はそのような広告はまったく見たことがないと回答した。広告主はデータに基づいてローカルや地域に特化した広告を作成する絶好の機会を得ている。生成AIはこれを支援し、地域市場を最もよく理解しているローカル局にチャンスをもたらす。

local fast

特定の郵便番号に広告を配信し、その地域のアクションを喚起することは、かつてないほど簡単で安価となってきている。生成AIは、ローカル広告主が以前の時代には出来なかった広告制作を助け、全国的なマーケティング担当者が数百のDMA向けに広告コンテンツを数分で微調整するのを助けることができる。また、テック・プラットフォームは、地域のストリーミングをパフォーマンス・マーケティング・マシンや効果的なリテール・メディアに変える方法を提供できる。

マーケティング担当者がアップフロントから資金を移すにつれ、予算は純粋なブランディングキャンペーンから、マーケティング投資利益率(ROMI)を前提としたメディア購入へと移行している。

ストリーミングのローカルニュースには、明確かつ明白な視聴者がいる。その成長を受け入れ、CTV、オーディオ、アプリベースのニュース消費に傾注するパブリッシャーは、現在見逃している広告費を獲得する大きなチャンスを手にしている。ストリーミングのローカルニュースに力を注ぐ広告主は、視聴者に効果的なメッセージ伝達に役立つプラットフォームを見つけるだろう。

 

*原文からの翻訳はプログラマティカにて行い、当社としての解釈および注釈などを加えてご紹介しています。

Source: TVREV “Local TV: Perils & Promise In The Age Of Streaming”(Sep.14,2023) 

 

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Yoshiteru Umeda|楳田良輝