It always seems impossible until it’s done.
全米広告主協会(ANA)が推進する「Aquila」

全米広告主協会(ANA)が推進する「Aquila」

ANAが主導するクロスメディア測定の全貌

テレビ×デジタル視聴の“重なり”をどう測る?

Association of National Advertisers「Aquila」

全米広告主協会(ANA)は、子会社ANA Aquila LLCが主導するクロスメディア測定の取り組み「Aquila」の進捗を公表しました。Aquilaは、2026年の本格導入を目指して順調に進行しており、リニアTV・ストリーミング・デジタル・ソーシャルを“重複なく”測定する意欲的なプロジェクトです。

Aquilaの最大の特徴は、広告の到達範囲を一元的に可視化することで、「誰に、どれだけ」広告が届いたのかを正確に把握できる点にあります。ANAは、この仕組みにより、今後3年間で最大500億ドル(約7兆円)におよぶ“無駄な広告接触”を削減できると見込んでいます。

 

なぜAquilaが求められているのか?

近年、米国ではNielsenの測定不具合をきっかけに、MRC(全米メディア評議会)の認定一時停止を含む測定信頼性の問題が広告業界全体を揺るがしました。こうした中、より正確で中立的なクロスメディア測定基盤への期待が高まり、Aquila構想が注目されています。

Aquilaの仕組みと中核技術

◾️ ビッグプラットフォームとの直接連携
Meta、Google、Amazon、TikTok といった主要プラットフォームのログデータを直接取得

◾️ 仮想IDモデルによる重複排除
Comscore のTV視聴データや、Kantar Media の5,000世帯パネル(現在は1,000世帯)を活用し、個人を特定せずに視聴データを仮想IDで統合。世帯内の複数人の広告接触を重複なく処理

◾️中立的な測定基盤の開発
Accentureが開発を担当。WFAが提唱する「Halo構想」を取り入れ、将来的なMRC認証も視野に

Aquilaがもたらす変化とは?

この測定モデルによって広告主は、媒体ごとの重複出稿を最小限に抑えながら、全体のリーチとフリークエンシーを戦略的に最適化できるようになります。特にCTVとリニアTVが融合していく「コンバージドTV」においては、キャンペーンの全体像を俯瞰し、ターゲットへのリーチの質と量を両立させる新たな手法として注目されます。

Aquilaの課題:業界の温度差と競合プレイヤー

Aquilaは、既存のクロスメディア測定プレイヤーである iSpot.tv、Nielsen、VideoAMP、および上述の Comscore とも直接競合する構図になります。そのため、VAB(全米テレビ業界団体)をはじめとした一部の放送事業者からは、「デジタルに寄りすぎる」との懸念も示されていると AdAge は報じています。しかしANAは、他測定システムとの相互運用も視野に入れつつ、業界全体の巻き込みを模索しています。

日本市場への示唆:テレビとCTVの役割再定義へ

国内においても「リーチはあるが本当に届いているのか?」という課題は共通です。Aquilaのようなクロスプラットフォーム測定が進めば、“広告の重なり”の可視化が進み、メディアプランニングの精度向上が期待されます。

 

これからはCTVがメイン、テレビが補完的役割に

Aquila(Eagle)

“Aquila”(アクィラ)はラテン語で「鷲(わし)」を意味します。空全体を広く見渡し、対象を的確に捉えるその特性は、まさにコンバージドTVを俯瞰するこの測定モデルにふさわしいネーミングかもしれません。

一方で、「重複リーチは“無駄”である」という前提には、少々異論もあり、議論の余地があります。認知向上やブランドリフトの観点では、一定のフリークエンシーが必要なケースもあるからです。

図1は、プログラマティカが考える、国内での地上波テレビCMも含む「コンバージドTVでのメディア戦略」を整理した資料からの一例です。横軸は「コスト」、縦軸は「インプレッション数」を表しており、CTV広告とテレビCMの役割の違いを視覚的に示しています。

  • CTV広告:ターゲティング精度は高いが、CPM(広告単価)が高く、広告量が不足しがち

  • テレビCM:重複リーチや補完だけでなく、周辺ターゲットにも幅広く届けられる。CPMは比較的安価で、広告量を担保できる

したがって、両者を統合的に設計することが最適なメディア戦略につながります。

図1:コンバージドTVにおけるメディア戦略ーCTVとテレビCMの役割比較

 

CTV広告だけでは広告量が足りない

予算をCTV広告に偏らせすぎると、インプレッションの絶対量が不足する可能性があります。テレビCMは引き続き重要な“量”の担い手であることが、図2のデータからも明らかです。

図2:CTV広告とテレビCMのアロケーション例

 

このテーマに関心のある方へ

今夏に刊行予定の新著では、「コンバージドTVにおけるメディア戦略」の中で、補完的な役割を担うテレビCMの意義や活用法について、さらに詳しく解説しています。刊行情報は、引き続きこのブログでもご案内していきます。

 

Source:ANA「ANA Aquila LLC Achieves Major Breakthroughs, Advancing Its Cross-Media Measurement Initiative」(2025.3.3)

 

Programmatica Inc.
Yoshiteru Umeda | 楳田良輝