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コンバージドTV:「テレビ×ストリーミング」視聴時間の再確認

コンバージドTV:「テレビ×ストリーミング」視聴時間の再確認

これからのキーワード「コンバージドTV」

コンバージドTV (Converged TV)」とは、ストリーミング視聴の急速な増加に伴い、視聴形態が断片化している動画コンテンツ視聴状況を統合的に捉える考え方です。現在の視聴環境には、リニアTV(従来のテレビ放送)、コネクテッドTV(CTV)、PC、タブレット、スマートフォンといった様々な形式やデバイスが含まれ、放送と配信を合わせて新旧の多様なコンテンツ配信プラットフォームが共存しています。この概念は、米国ではすでに広く定着しつつあり、今後の広告エコシステムにおいても重要な柱となると考えられています。

しかし、関連資料などを研究すると「コンバージドTV」以外にも「コンバージェントTV(Convergent TV)」や「コンバージェンスTV(Convergence TV)」という用語も見られます。これらは同じような意味合いで使われることも多いですが、以下のように異なるニュアンスを持つ場合もあります:

  • コンバージドTV:広告主の視点で「テレビ×ストリーミング」を包括的に捉え、実践的なメディア戦略を指す
  • コンバージェントTV:放送と通信の技術的な融合や、特に将来に向けた概念を示す場合に使用される
  • コンバージェンスTV:メディア全体をもっと広く学術的に論じる際に使われる(現状では最も一般的)

プログラマティカでは、このように整理をした上で、プログラBLOGでは「コンバージドTV」という用語に全て統一して使用します。今回は、このコンバージドTVの基盤となる「テレビ×ストリーミング」の視聴時間をまずテーマに取り上げます。

以下のコンバージドTVのランドスケープは、LUMA Partners社が2024年に整理したものです。

コンバージドTV、テレビ×ストリーミング、視聴時間
Source: lumapartners.com

 

大きく変化した「テレビ×ストリーミング」

「テレビ×ストリーミング」の視聴時間の再確認のために参照したのは、総務省が2012年(平成24年)調査から毎年公表している「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」です。本調査の対象年代は原則10〜60代となっています。最新である2023年(令和5年)調査と2017年(平成29年)調査を比較しながら、注目すべきポイントをピックアップしていきます。なお、調査概要や詳細データについてお知りになりたい場合は報告書の原本をご覧ください(文末に参照リンクあり)。
*2023年からキリよく5年前となる2018年(平成30年)は、調査時期が2019年2〜3月であり「平成30年度調査」のため使用せず

 

6年間での平均視聴時間の変化

まず、2017年と2023年の「平日の年代別の平均視聴時間」の比較です。テレビ視聴は「リアルタイム視聴」のみを、ストリーミング視聴は「動画投稿・共有サービス視聴」と「VOD視聴」を合算しています。
*グラフを見やすくするために小数点以下を四捨五入しています。

平日の平均視聴時間の6年間での変化を見ると、全年代でテレビの視聴時間は24分減少(△15%)、ストリーミングは53分増加(+294%)しています。テレビの視聴時間は60代を除く全ての年代で減少しています。特に減少幅が大きいのは10代の34分減(△47%)と20代の38分減(△41%)で、2017年と比較すると視聴時間は半分近くに、30代でも約7割程度(32分減)となっています。一方、ストリーミングは全ての年代で視聴時間が増加しており10代は100分増(+256%)、20代が91分増(+227%)と顕著です。さらに、30代の60分増(+333%)に次いで60代が34分増ながら増加率は+850%となっている点は注目に値します。

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次に「休日の年代別の平均視聴時間」です。

休日の平均視聴時間の変化で見ると、全年代でテレビの視聴時間は37分減少(△17%)、ストリーミングは72分増加(+222%)しています。テレビは全ての年代で視聴時間が減少しており、10代64分減(△53%)、20代54分減(△45%)の減少幅が大きい点は平日と同様です。また30代の46分減(△28%)に加えて、40〜50代も約15%減少しています(60代は△4%程度)。一方、ストリーミングは休日も全ての年代で視聴時間が増加しており、やはり10代が129分増(+163%)、20代は117分増(+186%)と伸びが顕著です。ですが、平日は60代の視聴時間だけが大きく増加していたことに加えて、休日では40代が65分増(+278%)、50代も44分増(+244%)と全体に視聴時間が長くなってきています。

 

休日の視聴時間は平日に比べ、以下のような傾向が見られます。テレビは全年代で約30%増加し、年代別では20〜45%の範囲で安定した増加を示しています。一方、ストリーミング視聴は40〜50代が大きく増加し、休日の視聴時間は平日の約3倍に達しています。

 

2017年では、全ての年代で休日のストリーミング視聴時間の増加率がテレビを上回っていました。しかし、2023年では10〜30代でストリーミングの増加率がテレビとほぼ同じ水準となっています。これは、若年層が平日でも長時間のストリーミング視聴しており、休日との視聴習慣の差が小さくなったことを示しています。一方、2023年では休日の視聴時間が急増している40〜50代は、2017年の時点では休日と平日のストリーミング視聴時間の差はもっと小さかったことが確認できます。

 

「行為者」で見た平均視聴時間の変化

総務省の報告書では、「行為者(率)」という集計指標が用いられています。行為者は「特定の情報行動を行った人」を指し、各メディアの「利用者」と理解するとわかりやすいでしょう。この指標で平均視聴時間を分析すると、全体平均とは異なる新たな洞察が得られます。

例えば、「ラジオ」がその代表例です。2023年調査では平日のラジオ平均聴取時間は全体で「7.3分」です。しかし、これを行為者(利用者)だけで見ると「135分(2時間15分)」に達します。ラジオは全年代の行為者率が5.4%と利用者が極端に少ないのですが、通勤中や職場、家庭内、さらには深夜など、習慣的に長時間聴取する人が根強く存在するメディアであることがわかります。このようなラジオ聴取の特徴を参考にすると「行為者」という指標を感覚的に掴みやすいと思います。

テレビは従来、この行為者率が非常に高いメディアでした。そのため、これまでは平均視聴時間を見る際に行為者率を特に意識する必要はなかったのですが、近年ではテレビの行為者率にも変化が見られ(特に年代別に見ると)、この視点を取り入れることの重要性が増してきています。

 

行為者だけで見た「平日の年代別の平均視聴時間」です。

平日の平均視聴時間の6年間での変化を行為者だけで見ると、テレビの視聴時間の減少は全年代でわずか8分(△4%)、またストリーミングの増加は55分ですが、率で見ると+29%に留まります。テレビは60代以外は全て減少していますが、10代の38分減(△31%)を除くと、20代は20分減(△14%)、30代も20分減(△13%)、40代は9分減(△5%)、50代は19分減(△9%)と行為者の減少幅(率)はかなり小さくなります。ストリーミングも10代の179分増(+134%)、30代の95分増(+60%)を除くと、20代は39分増(+16%)、40代は3分増(+1%)のみ、50代と60代では行為者の視聴時間では若干減少する結果となっています。

 

次に行為者の「休日の年代別の平均視聴時間」です。

驚くべきことに、休日の平均視聴時間は行為者だけで見るとテレビ、ストリーミング共に全てが増加しています。増加時間(分数)は下図を参照いただき増加率だけを整理すると、

  • テレビ:全年代+29%、10代+9%、20代+19%、30代+33%、40代+32%、50代+26%、60代+25%
  • ストリーミング:全年代+49%、10代+130%、20代+40%、30代+64%、40代+45%、50代+20%、60代+11%

となっています。つまり、この6年間のテレビの平均視聴時間の減少は「テレビの視聴時間が減ってきた」のではなく「テレビを全く観ない人(非行為者)が増えた」ということに他なりません。そして、平均視聴時間の減少が大きいほど、非行為者の割合が増したことになります。

 

同様にストリーミングの平均視聴時間の6年間の変化を見ると、行為者だけで見た増加率よりも行為者に限定しない場合(全体)の増加率の方が圧倒的に高いのは「ストリーミングの視聴時間が増えた」ことに加えて「ストリーミングで観る人が増えた」ことも大きく影響しているといえます。2017年から2023年での各行為者率の変化は以下のようになっています。10〜20代はすでに平日と休日共にテレビとストリーミングの行為者率が逆転しています。30代のテレビ視聴の行為者率も激減しています。テレビ業界にとってはかなり危機的な状況となってきています。

全体と行為者の比較

参考までにテレビとストリーミングの平均視聴時間を「全体」と「行為者」でそれぞれ比較すると以下のようになります。

 

1日の総視聴時間を推計する

ここまでのデータを基に「テレビ×ストリーミング」の1日の総視聴時間を年代別人口を勘案して推計してみます。総務省の調査は原則10〜60代が対象ですが、令和4年より70代も一部調査をしていますので、70代も加えた全国人口ベースで試算をしてみます。(以下は参考のための2017年と2023年の年代別人口の比較)

 

2023年の1日のテレビ総視聴時間は、平日が2億8,878万時間、休日が3億5,834万時間となりました。一方、ストリーミング視聴時間は平日が1億841万時間、休日が1億7,272万時間となっています。テレビ視聴に対するストリーミング視聴の総時間比率は平日で37.5%、休日で48.2%まで上昇してきています。

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総視聴時間を見てみると、テレビ視聴がまだまだ圧倒的な量を有しておりメディアとしての価値を堅持しているように思えますが、ストリーミング視聴の総量は急増しています。2017年時点ではテレビ視聴に対するストリーミング視聴の比率は平日で12.1%、休日でも15.8%でした。2017年データは10〜60代のみの集計のため、もし70代まで加えれば比率は(おそらく)もっと低かったことになりますが、これが2023年では総視聴時間が逆転している年代がいくつかあることが再確認できます。

 

テレビでのストリーミング視聴割合

最後に、2023年のストリーミング視聴(動画投稿・共有サービス・VODの合計)のうち、テレビデバイスでの視聴割合を推量するために「テレビのインターネット利用」のデータと比べてみました(共に行為者のみ)。ストリーミング視聴の半数近くはすでにテレビデバイスでの視聴となってきていると推察できます。特に高齢者(50〜60代)の休日のテレビでのストリーミング視聴は6割超えと高い数値となっています。

 

以上、今回は「テレビ×ストリーミング」の視聴時間を再確認しました。ストリーミング視聴が急速に増加する中で、視聴形態が多様化し、動画コンテンツ消費が断片化している現状を考えると、「コンバージドTV」という統合的な視点がますます重要になりそうです。プログラBLOGでも、今後このテーマを取り上げる機会を増やしていきたいと思います。

 

プログラマティカが提唱する「テレビ×ストリーミング」時代の評価の考え方
プログラマティカが提唱する「テレビ×ストリーミング」時代の評価の考え方

 

参照資料:総務省

 

Programmatica Inc.
Yoshiteru Umeda|楳田良輝