It always seems impossible until it’s done.
AdRM:アドリーチマックスの話を聴いてきた。

AdRM:アドリーチマックスの話を聴いてきた。

今年も濃かったInter BEE

昨年に引き続き Inter BEE 2024 に3日間行ってきました。三浦半島から幕張メッセはかなり遠いため泊まりです。今年は、前回の五井駅よりはちょっと近い宿を早めに、安く押さえておいたので少しは楽でした。拝聴したセッションは以下の通り。いくつかは時間が重なってしまったので後日のアーカイブ視聴も含みます。

 

Inter BEE 2024 @幕張メッセ

Inter BEE 2024 プレスリリースより

2024年11月13日(水)〜15日(金)

  • 定量データから見る情報空間の現在地〜生活者トレンドを正しく理解し、制度設計の礎とする
  • アドリーチマックス・プラットフォームのインプレッション取引を深掘りする
  • テレビにとってリテールメディアは敵か味方か?~テレビとの親和性を探る~
  • デジタル時代にドキュメンタリーをどう届けるのか
  • 放送の未来像を配信の“現場”から考える
  • ローカル局 元トップが次世代に託す放送局の未来像
  • アーカイブ配信なし!ローカル局コンテンツに明日はあるのか?
  • 次世代の安心安全な広告を探る~広告の自動化による課題回避策は?~
  • Netflixヒット作のプロデューサーに聞く最前線ストーリー
  • トークセッション:『ゴジラ -1.0』山崎貴監督&「計算機自然神社」も話題の落合陽一氏が登壇
  • 「個人メディア化」が加速する時代にどう向き合うのか
  • 日本におけるFAST事業の展開可能性と将来像

これだけの濃い内容のセッションを企画・準備され、環境の良い学びの場を、しかも、毎年無料でご提供いただいている関係者のみなさまには本当に感謝いたします。ありがとうございます。

さて、たくさんの貴重なお話を聴かせていただき、メモも取りまくったのですが、今回は絶対に聴いておきたいセッションがありました。 「アドリーチマックス」(以下、AdRM)です。理由は、今年8月頃に開発中のAdRMのお話を少し聞かせていただく機会があったのですが、あれから3ヶ月、最終的にどのようになったのかをキャッチアップしておきたかったからです。加えて、Inter BEEから約半月たった12月4日には、日本テレビさん(以下、NTV)の本社で開催された説明会に参加させていただける機会もありました。

説明会資料を勝手にブログにアップする訳にもいきませんので、もし資料や詳細内容にご興味がある方は(業界関係者のみだと思うので)、広告主の方は担当の広告会社さんに、広告会社の方はテレビ部署の人に資料を共有してもらってください。また、NTVさんの AdRM特設サイト でも最新情報などがご確認いただけるようです。

 

AdRMは概念、そして名称は

ということで、Inter BEEで伺ったお話、後日の説明会で聴いた、見てきた感想のようなものをひっそりとこのプログラBLOGに残しておきます。

日本テレビ「 AdRM 」プレスリリースより

AdRM とは、そもそも概念/構想のことでサービス名ではありません(ココをすでに誤認していた)。「Ad Reach Max」という概念/構想の下に「AdRMプラットフォーム」が存在し、その中に「AdRM-API」「スグリー」「AdRM-Exchange」の3つのサービスが存在します。左から右へ、よりチャレンジングな取り組みになると説明されていました。

AdRM-API は、名称の通り(一部の)広告会社とAPI連携するためのサービスで、既存のEDI(電子データ交換)よりも高度なものを目指しているようです。先日、電通さん、博報堂さんからはAPI連携のリリースが早くも出ています。

ソニーマーケティング「BROAD+」サイトより

AdRM-Exchange は、デジタル広告の世界でいうRTB(リアルタイム入札)を実現するためのサービスです。OpenRTB2.6に準拠して開発しているとのこと。こちらもソニーマーケティングさんから「BROAD+」(2025年春開始)内での連携としてリリースが出されています。ただし、ソニーマーケティングさんは他サービスとの連携も検討しており、NTVさんも他社とも、互いに排他的な契約、取り組みではないとしています。いいですね。今後、あそことか、あそことか・・いくつか繋がっていくことでしょう。

そして、スグリー が、これまでニュース記事などで取り上げられていた地上波テレビ(リニアTV)をオンライン上で受発注できるWebサービス、つまりプログラマティック取引のフロントとなるサービスとなります。スグリーは、

  • 広告をスグ打てる
  • クリエイティブをスグに変えられる
  • 進捗がスグにわかる

から、名付けられたと思われますが(たしかそう言ってたような気がする)、この新サービスを AdRM あるいは アドリーチマックス と呼んでいた方は「スグリー」とスグに覚え直してください。

スグリー ではいくつかの新しい取り組みが行われます。私もまだ全てを把握できてないのですが、大きくは、

  • インプレッション予約(インプレッション取引)
  • 自動入札オークション(RTB)
  • 放送20分前のクリエイティブ変更(直前差し替え)
  • 最短15分後からのレポート無料提供(データ可視化)

などです。

 

2026年中に5エリアまで拡大

(以下、敬称略)

2025年4月からNTVが先行してサービスを開始し、2026年4月から系列の中京テレビ(CTV)、読売テレビ(YTV)、2026年10月には福岡放送(FBS)も追随します。また札幌テレビ(STV)は現在前向きに検討中とのことですが、先般大きな発表があったようにこの基幹4局は2025年4月に「読売中京FSホールディングス」(FYCSHD)を設立して経営統合しますので(FYCSHDにNTVが20%出資)、2026年中に最大5エリアまでサービスが拡がるようです。

最短15分後からのレポートは、有料/無料に拘らなければ現状でもソリューションが存在してない訳ではないですし(ただ、今回無料なのはスゴい)、放送20分前のクリエイティブ(CM素材)変更については、そのような需要があるか否かはおいておいて(Inter BEEでそんな質問が出ていた)、オンライン送稿やCMバンクなどの機能が高度化すれば対応できそうな気もしますが、「今、需要があるかないかではなく、機能ができることで新しいアイデアも生まれてくる」「令和の時代にそぐうシステムとしたい」というようなお話を熱くされていました。

自動入札オークションについては詳細まではわかりませんでしたが、特許庁に特許申請された公開特許公報*1も読む限りでは、インプレッション予約でCM枠が埋まらない場合にRTB(つまり入札)が発動されて広告主(CM素材)が決定するような仕組みになるんだろうと思われます。現状では3秒前まで入札可能となるようです。ビッティングにかかる時間は0.3〜1秒以内とのことで、デジタル広告のRTBと比較すると遅い感じもしますが、リニアTVのCM枠には限りがあり、量もそう多くないため*2、そこはあまり問題ではないような気がします。
*1 2024年12月6日時点では特許査定中  *2 スポットCM本数は各局共に1週間で約5,000本前後(15秒換算/当社試算)

また、FIB/LIB(CMポジション)を指定した入札も可能となるようです。ポジション指定はテレビ朝日(EX)の「ミライセールス」の中でトライアルがなされていたり、以前は「枠ファインダ」の中にもメニューがあったりしたような気もしますが、同じCMチャンスでも価格を変える(上げられる)というのは大変面白い取り組みだと思います。以前、インドではCMポジションが指定できて2番目のポジションが一番人気があると聞いたことがありましたが(真偽は不明)、視聴質データではCMチャンスの最初と最後のCMの画面注視率が高くなる、ということは前からわかっていますので、単にインプレッション数だけではない成果が広告主、テレビ局共に出ることを期待したいです。
* FIB:ファーストインブレイク(CMチャンスの最初のCM)/LIB:ラストインブレイク(CMチャンスの最後のCM)

いずれにしても、これまでオフライン、人力が中心だったテレビCMの世界がひとつのプラットフォームの中でオンラインで完結するとなると、それは大きな進歩なんだろうと感じます。説明会併設の展示ブースでは初めてスグリーの実機を見学することもできましたが、UIはシンプルでとても使いやすそうに見えました。ただ、まだ完全には出来上がってないようで、上層部の方も「動いているのを見るのは今日が初めて」と冒頭の挨拶の際におっしゃってました。完成が楽しみです。ここまで来たら「直販」もやればいいのに、とも思いますが、そこは大人の事情もあることでしょう。商流は、あくまでも 広告主 → 広告会社 →(DSP)→(SSP)→(AdRM- PF)→ テレビ局 というような流れになります。最後にNTVではなく、テレビ局と書きましたが、AdRMをNTVとその系列だけでなく他局・他エリアへも拡げて放送業界の標準規格としていきたいというのが目標のようです。また、複数規格の乱立を防ぎたいとの思いもあるようです。ただ、他局の参加については現在鋭意交渉中とのことで情報は非開示でした。

www.openap.tv より

米国の「Open AP」のようなものを目指しているのかも知れません。OpenAPは、元々デジタル広告に対抗する形で大手テレビネットワークが始めた横断的な取り組みですが、共通IDである「OpenID」を活用したTVクロスプラットフォーム測定「XPm」も提供しています。
*Fox、NBCUniversal、Paramount、Warner Brothers Discoveryが2017年に共同設立(ABC/Disneyは除く)

AdRMもビデオリサーチの新サービス「CM-UMPs」と連携することで、インプレッション数とリーチに加えて、地上波(リニアTV)とTVer(CTV広告)のインクリメンタルリーチの即時レポートを実現するようですが、スグリー経由でない場合のテレビCM出稿(他局も含め)の測定も含まれるのかどうかは、聴き逃しました。
*Cross Medai Unified Metrics Providing sytem。メディアを跨いだトータルオーディエンスに対する測定が可能。2024年4月から関東地区ではコンテンツ測定のβテストは行われていたはず(未確認)。

また、説明会ではスグリーのアカウント登録などについても多くの時間がさかれました。それは今回のブログでは取り上げませんが、今後の複数エリア、複数局にまたがる場合などの口座開設・与信管理・アカウント設定、また現状でも複数の広告会社が関与する場合の細かなことは、私がその専門ではないので理解するのにちょっと時間がかかりそうでした。

 

結局、いくらくらいで取引されるのか?

さて、残るインプレッション予約です。つまり、これまで唯一の取引通貨であった視聴率による「GRP取引」からインプレッション(広告表示回数)を取引指標とする新たなテレビCMバイイングがついに始まります。たしかに、これまでもGRPをインプレッション換算してテレビCMのプランニングをしたり、その効果を見たり、デジタル広告と指標を合わせて統合的に管理することなどはすでに行われてきています。しかし、GRPをインプレッション換算することと、インプレッション指標でそのまま取引できるということは「似て非なるもの」です。これは国内のテレビCMにとって大きな変革だといえます。

ご存じの方も多いとは思いますが、米国でのテレビ広告取引は「インプレッション取引」が数年前より主流となっています(ただし、単一通貨ではなくマルチカレンシー)。そうなった理由はいくつかありますが、プログラBLOGやメディアの連載などでこれまで幾度か取り上げていますので、ご興味がある場合はそちらをご覧ください。

スグリーの話に戻ります。NTVはサービスの開始当初、インプレッション取引に割り当てるCM枠は一旦15秒CMのみで、週に最低140本(ローカル在庫の3%程度)のミニマムローンチとなるとしています。インプレッション数では約1.3億imps想定のようです。ここで先祖返りしてGRP換算するのもおかしな話ですが、わかりやすく関東エリアのテレビ保有世帯を勘案した男女4歳以上の個人全体を「3,860万人」(当社試算)として算出すると、週に約330〜340GRP分のCM枠が初めてインプレッション取引されることになります。
*1週間に168時間分(24時間×7日間)の時間帯(枠)が存在するので、ローンチ当初は1時間につき0〜2本(15秒CM)程度の割り当てとなりそう。

ローンチ時はローカル在庫の3%程度を予定

SAS(スマート・アド・セールス)が開始された当初にNTVが割り当てたCM枠は、たしかスポットの約20%程度と聞いた記憶がありますので、それと比べると随分と少なめな印象は受けます。ただ、2ヶ月前にセールスを開始して1ヶ月前には締め切るSASでは、残枠があれば通常スポットセールスに戻して売り切ればいいので、それが可能となったのでしょう。(それができる商品設計となっている)
*キー局(4局)を中心に2020年2月に開始した枠単価セールス(その前身のNTVのASSは2018年2月開始)

方や、RTBまで入れると直前までCM枠を未販売のまま持っておかなければならないスグリーでは、セルスルー率が下がる危険性もあるため当初から多めの枠を割り当てることが難しかったのではないかと想像します(スポット受注は常に満稿状態でもある)。放送波によるCM在庫は「未来」には繰延べられないのでヘッジが必要です。仮にインプレッション取引で10%カロリーアップできたとしても、セルスルー率が5%下がれば、収入純増は5%のみとなってしまいます。また、インプレッション取引はアクチャル請求となり(これは広告主にとってはいいことでしょう)、ちょっともったいない気もしますが C7(7日間内のCM枠平均タイムシフト視聴率)の上乗せ分は無くなるとのことなので、なおさらインプレッション取引した際の収入増減が気になります。なんとかテレビ局収入(以下、局収入)が上がっていく(テレビCMの価値が見直される)ようになることを願うばかりです。

インプレッション取引では、ターゲット指定でテレビCMが買えるようになります。とはいっても、現状の国内の放送方式ではデジタル広告(例えばCTV広告)のようにアドレサブル(1視聴ごと)に広告を出し分けることは不可能です。それを実現するためには欧州のDVB-IやHbbTV、米国のATSC3.0のような仕組みの導入が必要となります。それがいつになるかはわかりません。もしかすると日本国内では導入されないのかも知れません。したがって、今やれることとして、テレビCMが到達した(表示された)インプレッションのうち、指定されたターゲット分だけを課金することになります。では、それがいくらの CPM(広告表示1000回単価)で取引されるのか? ということが、このサービスが成功するか否かを分かつことになるでしょう

ただ、今回のInter BEEおよび説明会では、残念ながら価格設定(料金)についてまでは情報がなかったです。おそらく現在まだ検討されているところなのではないでしょうか(なかなか難しい問題)。当然、新しいシステムには投資も相当かかるでしょうし、これまでに半端ない時間と労力を要したと思われます(執行役員の方が構想4年と説明していた)。結局、インプレッション取引を導入しても局収入があまり増えないのでは成果となりません。もちろん、今よりも価格を敢えて下げるようなことはないのでしょうが、「(これで)テレビCMの価格が上がるのは嬉しいが、高過ぎると買ってもらえない危惧もある」という主旨のこともおしゃっていたので、スグリーは単純に「価格」を上げるためだけのサービスでないことは見て取れます。そういった面では、一番聴きたかったところはもう少し先になるようです。2025年3月までには実際にシミュレーション可能なツールが関係者に配布されるとのこと。私も入手できれば使ってみたいと思います。

最後に、Inter BEE の際に少し気になったことは、投影されたキャンペーン実績数値では総インプレッション数が3,916.7万imps(また換算すると約100GRP規模)、女性18-24歳(F18-34)の比率が49.5万imps(約1.3%)、女性25-34歳(F25-34)が194万imps(約5.0%)となっていたのに対して、ターゲット指定のインプレッション取引例では、F25-34をターゲット指定して3,500万impsを受注した際の個人全体(ALL)が2億5,000万impsという数値で示されていました。比率として14.0%です。インプレッション取引によってターゲット効率が上がるという説明なのだろうと理解はしましたが、かなり高い設定(目標かも知れない.)なんだなと少し心配になりました。この想定値じゃないと成立しない仕組みなのか? 実績数値のF25-34の5.0%というのが経験上、割と納得感のある数値だっただけに余計にそう感じました。(NTVのF1・F2比率は他局と比べ高めではあるが…)

  • F18-34:49.5万imps ÷ 3,916.7万imps  = 1.3%(実績数値)
  • F25-34:194万imps ÷ 3,916.7万imps  = 5.0%(実績数値)
  • F25-34:3,500万imps ÷ 2億5,000万imps  = 14.0%(インプレッション取引例)

*スグリーでのターゲット指定のデモグラセグメントは14区分に設定。ローンチ当初はM/F18-24(7歳刻み)、M/F25-34とM/F35-44(10歳刻み)の6区分となる

キャンペーン実績数値 〜INTER BEE BORDERLESS 会場にて〜
ターゲット指定インプレッション取引例 〜INTER BEE BORDERLESS 会場にて〜

*ただし、前述の通り、サービス開始当初は週1億3,000万imps規模(月間にして約5〜6億imps)となっているので、1キャンペーンでその半分のインプレッション数(2億5,000万imps)を消化しないはず。上記例は将来的な規模拡大時のシミュレーション値であろうと捉えている。

 

CPMを試算してみる。

ちなみに、総インプレッション数の2億5,000万impsをまたまたGRPに戻すと個人全体で 約650GRP です。これに%コストをキリよく15万円と仮設定して試算すると、GRP取引だった場合の平均的な局収入は 9,750万円 ということになります。

  • 650GRP × 15万円 = 9,750万円

そこから試算した平均CPMは、

  • 9,750万円 ÷ 2億5,000万imps × 1,000回 = CPM390円

です。個人全体(ALL)で見ると、国内のテレビCMはやはり非常に安いですね。

そこで、同様にF25-34(比率5.0%)でも試算してみます。

  • 2億5,000万imps × 5.0% = 1,250万imps
  • 9,750万円 ÷ 1,250万imps × 1,000回 = CPM7,800円

さらに、F18-24(比率1.3%)の場合も試算してみます。

  • 2億5,000万imps × 1.3% = 325万imps
  • 9,750万円 ÷ 325万imps × 1,000回 = CPM30,000円

となります。つまり、新たにインプレッション取引が開始した後も、仮にF25-34とF18-24の比率が実績数値に近いままだとすると、これ以上のCPMでセールスできないと局収入は現在よりマイナスとなってしまいます。特にF18-24はちょっとハードルが高そうに思えます。広告会社さんがこの金額(CPM)で頑張って売り切ってくれればいいのですが…。

たしかに、投影されたインプレッション取引例のように、F25-34ターゲット指定の3,500万impsの受注を総インプレッション数が2億5,000万impsとなるCM露出でクリアできれば(ターゲット比率が14.0%必要)、以下のようなCPMでもマイナスにはなりません。ですが、これでもGRP取引した際と同程度の局収入なので、わざわざ手間をかけてインプレッション取引する必要がないようにも思えてきます。これよりも高いCPMで設定されなければなりません。逆に平均的なGRP取引よりも安いCPMで売り出せば、広告主は今でも安いテレビCMの「お得感」がさらに増すので、もちろん受注は確実に増えるでしょう。でも、それだと局収入という面では全く意味がなくなります。結局、いくらくらいで取引されるようになっていくのでしょうか?

(3,500万imps ÷ 2億5,000万imps = 14.0%)

  • 9,750万円 ÷ 3,500万imps × 1,000回 = CPM2,780円

 

そもそも、デモグラの単一セグメントでターゲットセールスする場合は、GRPで取引(%コスト)しても、インプレッション取引(CPM)しても結果は同じになります。計算しなくてもわかりますが、計算するとよくわかります。そして、ターゲットを絞れば絞るほど、矮小化すればするほど、その(%コストも)CPMも高騰していきます。それを解決できるような新しいアイデアと仕組みが必要です。あるいは、まずはインプレッション取引を定着させるために、例えばローンチ時に想定しているデモグラ6区分であるM/F18-24(7歳刻み)、M/F25-34とM/F35-44(10歳刻み)の幅を一旦もう少しまとめて、M18-44やF18-44、またはMF25-44などとして、見た目の設定CPMを低く抑えるようなことも必要となるかも知れません。そして大切なのは、その際にターゲット効率の向上など広告主側にとってのメリットがきちんと有るのか無いのかです。
*インプレッション数を視聴率から推量するしかない現段階においての前提

今後は、インプレッション取引が従来のデモグラセグメントだけに閉じていては仕方のないことですし、広告主はもっと細かな、あるいは特定セグメントのターゲット効率を高められるようなプランニング&バイイング、そして測定&評価を「テレビCM×CTV広告」(共にインプレッション取引)に求めてくることになるでしょう(そうならなくてはならない)。

 

<2024年12月8日追記>
あくまでも先の実績数値を元にして、個人全体が2億5,000万impsのキャンペーン時のターゲットインプレッション数とCPMを試算したのが以下のグラフです(参考値)。これを見ると本来の開発主旨とは少し異なるでしょうけども、まずは「コアターゲット」(男女13〜49歳)をCPM1,500〜2,000円(参考値ではCPM1,250円なので+20〜60%)くらいでインプレッション取引を始めてみるというのも意外とありなのかも知れません。実績数値のコア層比率が3割強ですから、それがCPM上昇率を上回れればいい訳です(なら、さらに+αのメリットが広告主に生まれる)。F25-34比率を5%から14%まで引き上げることは何本かの少ないCM量であれば可能だと思いますが、F25-34ターゲット指定で3,500万impsくらいまでの規模となると、これまでいろいろと試算してきた経験では、NTVに限らず他局も現実的にかなり厳しいのではないかという気がしています。

 

参考値:2億5,000万imps(個人全体)のターゲットインプレッション数とCPM試算

 

*参考例として、少しデータは古いですが(2023年上期頃)、当社独自に試算した女性20-34歳(F1/15歳刻み)ターゲット比率をボックスプロット(箱ひげ図)にしたものをご紹介しておきます。参考例①が平日参考例②が土日となっています。当然、各局において差はありますが(以下は一例)、いずれの局もターゲット比率は同一時間帯の中でも大きな振れ幅があります。

 

参考例①:時間帯別のF1ターゲット比率(平日)*関東エリア某局/当社独自試算

 

参考例②:時間帯別のF1ターゲット比率(土日)*関東エリア某局/当社独自試算

 

もし、ここまでの計算方法や考え方が間違っていたら、是非ご指摘ください。もっと研鑽してみたいと思います。

テレビCMの新たな取引指標の導入は「テレビCMの本当の価値を再定義する」またとない機会です。国内で最初となるインプレッション取引にどういった価格設定がなされていくのかは、とてもに気になるところです。その価格設定が、今後の地上波テレビCMにおけるインプレッション取引の「基準価格」的なものとなっていく可能性が高いからです。

 

さて、感想のつもりが、だんだん私の備忘録メモのように長くなってきたので今回はココまでとします。もし、次回を書けることがあれば、インプレッション取引に関する各局のポテンシャルについて、AdRM に他局・他系列が参加する場合に考えておくべきこと(注意しておくこと)、「アウトサイドファネル」とプログラマティカが提唱する「周辺ターゲット」の定義はちょっと違う、などをあまり長くならないように書きたいと思います。

 

最後の最後となりましたが…
ただ、今回の国内のテレビCMにおける新しい取り組みについては、大きな期待を持つと共に、心より応援しています。

It always seems impossible until it’s done.

 

Programmatica Inc.
Yoshiteru Umeda|楳田良輝

 

インプレッション取引のシミュレーションまとめ