Comscore、VideoAmpに加えてiSpot.tvを完全認証
米テレビネットワーク(あるいはその親会社)であるFox、NBCU、Viacom(現Paramount)、WarnerMedia(現Warner Brothers Discovery)が2017年共同設立したOpenAPが、2023年1月新たに「JIC」(U.S. Joint Industry Committee)」を設立したことはプログラBLOGでも取り上げてきました(「OpenAPがJIC設立、「XPm」とは何か」)。JICが今月公開した最新資料を確認しながら、その内容をご紹介していきます。
JIC(米業界合同委員会)は、設立からわずか1年余りで新しいクロスプラットフォーム通貨の基本要件を策定し、その後、最初の「通貨認証」を通じて新しい通貨の厳密な分析を行っています。このプロセスは、常に変化する消費者の視聴行動をベースに進められています。
JICは、テレビ広告市場が新しいデータを統合し、基盤となるビジネスモデルを調整しながら、数十億ドル規模の市場を安全かつ責任を持って移行するためには長い時間を要するだろうと考えています。しかし、この変革の中心にある、取引に使用される測定会社が提供するデータセットの「透明性」と「信頼性」は極めて重要です。
最初の通貨認証を終えて、JICは評価したすべてのソリューションが有意義な進展と革新を示していると分析しています。また、クロスプラットフォームを強化するためのさらなる投資も評価をしています。測定会社の手法やデータセットが進化し続ける中で、JICの評価は引き続き柔軟かつ継続的に行われ、通貨としての「トランザクタビリティ」(取引への適合性)の基準とデータの安定性が理解され維持されることを保証していくとしています。
「米クロスプラットフォームソリューション取引ガイドライン」は、JICが過去15か月にわたって行った広範な分析を要約し、市場に対して透明性かつ詳細な情報提供することを目的としています。またJICはこのガイドラインを「リビングドキュメント*」として機能させ、新しいデータが利用可能になるたびに更新を続けていく予定です。実際に最初のガイドラインを2024年4月のComscoreとVideoAmpの完全認証時に発表しましたが、限定認証だったiSpot.tv(以下、iSpot)を2024年8月に完全認証した際にガイドラインは早くも更新されました。
*状況や新しい情報に応じて更新され続ける文書
米クロスプラットフォームソリューション取引ガイドライン
JICのミッションと役割
長尺ビデオコンテンツの測定方法が変化し、新しい通貨が登場する中で「買い手」と「売り手」は、どの通貨が取引に適しているかを明確にする必要があります。この必要性から2023年1月に米国でJICが設立されました。
JICはメディアバイヤーとビデオサプライヤーが協力して、サステナブル(持続可能)なビデオ測定モデルを定義するためのフォーラムとして機能しています。初年度の活動は、新しい通貨の認証と、測定ソリューションを強化するためのデータサービスの構築に焦点を当てています。JICは取引に必要な共通基準を定義することで、透明性を高め、測定ソリューションの革新と競争を促進することを目指しています。
JIC認証とMRC認定の比較
JICは、MRC*(米メディア測定評議会)と連携し、JIC認証(Certification)とMRC認定(Accreditation)が相互に補完し合う形で、取引基準のコンセンサスを形成しています。JICは米国内のクロスプラットフォーム測定ソリューションの取引準備の状況を評価する一方、MRCは測定手法の集中的な監査を行います。JICの目標は、測定会社がJIC認証とMRC認定の両方を取得することであり、通貨ソリューションを提供する測定会社にはMRCの監査を受けることも求めています。そのため、MRC監査に向けた積極的な活動もJIC認証の評価のひとつとしています。
*Media Rating Council
測定会社は、JICと協力して取引通貨としての準備を整え、プライバシーやデータセキュリティの問題を解決します。また「ストリーミングデータ認証プログラム」にも参加することで、通貨ソリューションと測定ソリューションの両方で「ストリーミングデータサービス*」(SDS)を利用できるようにもなります。
*JICによるガバナンス監視のもとに提供される中立的なプラットフォーム
最終的にどの通貨で取引を行うかを決定するのは買い手と売り手です。JICが進めているトランザクタビリティの基準を策定する取り組みは、プライバシー要件を含め、テレビ測定においてファーストパーティデータを活用するために非常に価値があります。— ジョージ・W・アイビー、MRC エグゼクティブディレクター兼CEO —
進化の加速のための「共同」
JICは、通貨のトランザクタビリティに焦点を当て、買い手と売り手の両者に情報提供を行い、変化する測定の状況を明確にするための建設的かつ効果的なフォーラムを設立するよう努めてきました。「ビデオ広告」のエコシステムは今後も間違いなく変化が続くため、業界全体が「共同」してその準備を整える必要があります。JICのメンバーは、業界の継続的な変革に対応するために、機敏かつ厳格に行動し続けることを約束しています。
JIC通貨認証の概要
JICの認証プロセスは、ビデオ広告におけるクロスプラットフォームソリューションの準備態勢を評価するために設計されています。このプロセスでは、ソリューションがビッグデータをどのように活用しているか、テクノロジーやインフラ、相互運用性、プライバシー規制への対応、データの透明性、ワークフローや取引の柔軟性、メディア管理などが評価されます。これらの評価基準は、買い手と売り手が合意した基本要件に基づいており、取引に適した商業的ソリューションを明確にすることを目的としています。また、JICはクロスプラットフォームの未来に備え、複数の通貨(マルチカレンシー)を推進することを目指して、この認証をリビングドキュメントとして更新し続けていきます。
検証と承認
厳密なデータ検証と承認プロセスを通じて、すべてのクロスプラットフォーム通貨がトランザクタビリティに関する最低要件に基づいて評価されました。この評価基準の定義には、買い手と売り手が対等に意見を反映させています。要件は、以下の主要分野に沿って設定されています。
- ビッグデータ
- テクノロジーとインフラ
- 相互運用性
- プライバシー
- 透明性
- ガバナンスと取引の柔軟性
- クロスプラットフォーム測定
- クロスメディアの透明性、メディア統合と管理
認証プロセス
クロスプラットフォームソリューションを持つ測定会社はJICの認証プログラムに招待されました。このプログラムは、2つのフェーズに分かれています。
フェーズ1: RFI*(情報要求)
JICは、9つのカテゴリーと54の質問からなる詳細なRFIを送付し、6社が回答しました。その後、公開された「スコアリングルーブリック」に基づいて、JICの小委員会がRFIの評価を行いました。各企業はトランザクタビリティのレベルに基づいて評価され、全カテゴリーで3点以上を獲得する必要がありました。これらのスコアは小委員会で審査され、最終的にJIC全体で承認されました。
*Request for Information
フェーズ2: データ評価
フェーズ1で条件付き認証を受けた企業(Comscore、iSpot、VideoAmpなど)は、データ評価フェーズに進みました。この段階では、特定の条件下でのトランザクタビリティを確認するために、実際のデータを提出することが求められました。評価は3つの分野に分かれ、各プロバイダーが標準化された形式でデータを提出し評価されました。ただし、クリーンルーム機能などは、この初期評価には含まれていません。
合計800以上のテストが実施され、以下の評価が行われました。
データ評価の質問:62の追加質問が行われ、データの完全性と透明性が評価され、スコアの5%を占めました。
キャンペーン評価:50のテストでキャンペーンデータの生成能力が評価され、スコアの15%を占めました。
広告在庫評価:760以上のテストで広告在庫(供給)のデータ生成能力が評価され、スコアの80%を占めました。
テストは標準化された形式と分析基準で実施
透明性:完全性と明確性の観点から評価するための一連のテストが実施されました。
完全性:要求したすべてのデータセットとフィールドを含んでいるかどうかを評価しました。
方法論:取引に問題なく使用できるように、エラーがないかを判断する一連のテストが行われました。
安定性:正確な予測モデルのトレーニング、計画、見積に適しているかどうかを確認するために、視聴統計の安定性を時間をかけて検証する一連のテストが行われました。
認証のスコアリング基準:フェーズ1およびフェーズ2の採点は、以下のような基準に従いました
- スコア4:最優秀。ほぼすべての要件を満たしている。
- スコア3:取引可能だが最優秀ではない。多くの要件を満たしているが、まだいくつかのギャップがある。
- スコア2:取引はできないが接近している。カテゴリのいくつかの要件を満たし始めている。
- スコア1:取引不可。いくつかの要件を満たし始めているが、大部分はまだ計画段階にある。
評価された参加者(参加招待された企業):
Comscore、Innovid、iSpot、SambaTV、VideoAmp、605(現在はiSpotの一部)
*Nielsenも参加招待したが現時点では辞退
条件付き認証(2023年9月時点):
Comscore、iSpot、VideoAmp
完全認証の付与:
2024年4月:ComscoreとVideoAmp
2024年8月:iSpot
全米テレビ広告支出と取引における通貨使用例
eMarketerによると、2024年の全米テレビ広告費は総額906.6億ドル(約13兆6,000億円)に達する見込みです。そのうち、リニア広告市場が605.6億ドル(約9兆1,000億円)、CTV(コネクテッドTV)が301億ドル(約4兆5,000億円)を占めます。特に注目すべきは、テレビ広告費全体の成長が完全にCTVの拡大によって牽引されており、リニアTV広告費は減少している点です。
クロスプラットフォーム環境におけるビデオ通貨の定義
JICは、取引の基盤となるデータを「通貨」と定義しています。使用される通貨や取引構造はメディアの買い手と売り手の間の交渉で決定されます。リニアTVとCTV市場間の測定指標や取引構造の違いが課題となっており、全プラットフォームでの統一と標準化が重要です。現在、リニアTVとCTVの視聴者比較に使われる指標は異なり、誤解を生じやすい状況です。JICはクロスプラットフォーム対応のためのソリューション準備状況を評価していますが、最終的な取引方法の決定は買い手と売り手に委ねられます。
リニアTVにおける通貨使用例
リニアTVでは、主に2つの標準指標が取引通貨として使用されています。1つ目はスポーツ番組以外で一般的に使われる「平均CM視聴数(ACM*1)」で、放送中のすべてのCM分の平均視聴者数を示します(例えばC3/C7の視聴率から計算される)。2つ目はスポーツ番組でよく使われる「平均番組視聴数(AMA*2)」で、放送中のすべての平均視聴者数を反映します(Program Live + Same Day*3としてリアルタイムと同日の録画再生視聴を含む)。
*1 Average commercial minutes / *2 Average minute audience / *3 PLSDと略すこともある
現在、リニアTVの多くは、年齢や性別に基づくデモグラ取引に依存していますが、狭いデモグラでのターゲティングからP2+(男女2歳以上)やP18+(男女18歳以上)などのより広いデモグラへのシフトが進んでいます。テクノロジーとデータ活用の進展により、ACMを用いた世帯ベースでの高度なアドバンスト・オーディエンスでの取引が増加しています。また、より精密な秒単位の測定(SBS*)への移行も求められています。
*Second-by-second
CTV/ストリーミングにおける通貨使用例
ストリーミングでは、秒単位でインプレッションが測定され、各キャンペーンにおける正確な広告露出が集計されます。リニアTVからストリーミングへの広告シフトが進む中、CTVやデジタル市場ではすでに複数の測定ソリューションが使用され、キャンペーンのパフォーマンスを包括的に理解し、投資配分を最適化するために測定の統一が不可欠とされています。現在、ストリーミングでの取引の多くは、ファーストパーティやサードパーティによるターゲットオーディエンス、または世帯やデバイス単位で行われていますが、一部は依然としてリニアTVのデモグラフィック測定に基づいています。
今後、メディア毎の個々インプレッション数から、クロスプラットフォームにおける正確な広告インプレッションと重複排除されたリーチへの移行は重要となります。リニアTV視聴者の減少とスポーツコンテンツのストリーミングへの移行が進む中で、インプレッション測定の標準化は急務となっており、全プラットフォームでリーチとフリークエンシーを管理するための測定手法の統一と強化が求められています。
広告主にとってターゲットオーディエンスに基づくインプレッションの正確なカウントと評価を理解し、すべてのメディアとスクリーンにわたる標準化が不可欠です。この統一されたアプローチにより、クロスプラットフォーム広告の効果がより正確に評価され、広告主は効率的な戦略を立てることが可能となります。
バイイングシステム
JICは、クロスプラットフォームでのトランザクタビリティに向けた測定の準備状況の評価に重点を置いてきました。しかし、新しい通貨を効果的に活用するためには、バイイングシステムとその取引構造にも対応することが同様に重要です。この包括的なアプローチにより、測定と取引の両方のプロセスが進化するメディア環境に完全に対応できるようになります。
〜続く〜
*原文からの翻訳はプログラマティカにて行い、当社としての解釈および注釈などを加えてご紹介しています。
Programmatica Inc.
Yoshiteru Umeda|楳田良輝