キャンペーンを成功させるテレビ視聴インサイト
2003年に設立されたEffectv(米ニューヨーク)は、Comcastの広告販売部門として「マルチスクリーン・マーケティング・ソリューション」を全米の広告主に提供しています。つまり、リニアTV(従来のテレビ放送)、ストリーミング、ビデオオンデマンド(VOD)、デジタル広告などに対して、ファーストパーティデータを活用したオーディエンス・ターゲティング広告配信などを行っています。また、高精度なキャンペーンレポートやアトリビューション分析なども提供し、ROI(投資収益率)と直結する広告パフォーマンスの測定が可能となっています。
そのEffectvが「The TV Viewership Report 〜キャンペーンを成功させるテレビ視聴インサイト」の最新版を公開しています。2023年上半期を調査対象期間として、2,900万世帯、約40,000のマルチスクリーン・キャンペーン(マルチスクリーンTV広告キャンペーン)、総インプレッション数30億以上、テレビ視聴時間約140億時間のデータに基づく、最新のテレビ視聴インサイトは大変興味深いものとなっています。Effectvは、リリースにおいて特に以下の3点が本レポートでの注目すべき点だと紹介しています。
- リーチの高いキャンペーンが持っている共通点
- 視聴者がどこで、どのように視聴をしているのか
- ストリーミング広告への最適配分(アロケーション)
では、レポートを個別に見ていきましょう。
テレビコンテンツの視聴方法は様々である
まず、大規模な視聴者へのリーチはコンテンツと(アクセスする)デバイスを一体化させることから生まれる、と報告しています。Effectvは、これを「エンドポイント」と呼んでいます。テレビのプレミアムコンテンツの視聴の分断化は顕著で、もはや、同じコンテンツ(番組)であっても視聴者は画一的な方法でテレビ視聴を行っておらず、エンドポイント毎のきめ細やかな広告キャンペーンのプランニングと視聴測定が不可欠となっています。
リニアTV視聴の最新状況
しかし、依然として世帯あたり1日に6時間近くをリニアTVの視聴に費やしているという事実があります。これは、過日プログラBLOGでご紹介したSambaTV「2023年上半期|米テレビ視聴レポートから」も併せ読んでいただくと、調査結果に少し差があることがわかります(以下項目も同様)。米5大テレビネットワークのひとつであるNBCユニバーサルを持つComcast傘下のEffectvのレポートの特徴は理解しておくことが必要でしょう。
ストリーミング視聴の最新状況
かたや、ストリーミング視聴の大半(81%)もテレビの大画面で行われています。プレミアムコンテンツ視聴では、視聴者は自身が利用可能なデバイスの中で最も大きな画面を選択する傾向があるようです。テレビ画面での視聴は「共視聴」(複数人での同時視聴)の機会も高め、広告主にとっては一度に多くの視聴者にリーチできる期待値が高まります。
リニアTVが77%、ストリーミングはインクリメンタルリーチ
Effectvが今回調査した約40,000件のマルチスクリーン・キャンペーンのうち、リニアTVのみのリーチは77%と高く、ストリーミングによって獲得したインクリメンタルなリーチは13%でした。リニアTVのみのリーチが非常に高いことに驚きましたが、広告主はマルチスクリーン活用によって規模と新たなリーチの両方を得ることができることには違いありません。また、ひと昔前の「テレビCM×デジタル広告の統合リーチ」などのレポートと比較してみると、「リニアTV×ストリーミング広告」は重複リーチの割合が少ないことが今後に向けての重要なポイントです。(理由はいくつか考えられる)
ストリーミングのシェアは拡大、リニアTVは依然として基盤的存在
視聴者が新たな方法でプレミアムコンテンツに接触するにつれ、リーチシェアはリニアTVからストリーミングへと徐々にシフトしていることは間違いありません。しかし、依然として広告キャンペーンのリーチの大部分はリニアTVが基盤となっており、ストリーミングのみのリーチシェアの伸び(21年下半期は9%→23年上半期には13%)は、ストリーミングがインクリメンタルな視聴者にリーチできることを強調する結果となっています。しかし、現下においては、ストリーミングのみのアプローチではリーチを著しく制限する結果になると報告されています。
リーチの高いキャンペーンには共通の戦略がある
Effectvは、リニアTVとストリーミングで評価した約40,000件の広告キャンペーンの中から、最もリーチの高かった1,000キャンペーンを抽出、さらに分析し、それらのキャンペーンの特徴を明らかにしました。これらリーチの高いキャンペーンには、多数のエンドポイントを持つこと、幅広い時間帯を利用し、コンスタントな広告露出を行うなど、いくつかの戦略の共通点が存在していました。近年、注目が高まっている FAST (広告付き無料ストリーミングTV)の活用も高リーチな広告キャンペーンを形成する要素のひとつとなっています。
*Xfinityは以前のComcast Cable。2010年よりXfinityブランドとして、ケーブルテレビやインターネットなどの電気通信事業を行っている
ストリーミングはリニアTVでリーチできない視聴者へ
ストリーミング広告は、リニアTVをあまり観ない層(ライト視聴世帯)/全く観ない層(未視聴世帯)にリーチする可能性が高いと考えられます。調査では、それらの層に対するストリーミングのインプレッション比率は4.6倍と高く、また、FASTでのインプレッションはリニアTVと比較して10.6倍と圧倒する結果が報告されています。現在の「FASTブーム」にうなずけます。
ストリーミング広告への最適配分は?
2021年以降、Effectvが10万以上のマルチスクリーン・キャンペーンを継続的に分析した結果として、リーチがピークに達するのはストリーミング広告への最適配分(アロケーション比率)を20~30%の範囲で行った時であることが判明したとしています。30%を超えた場合、ストリーミング広告へアロケーションするメリットよりも、リニアTVの広告露出が減ることによるマイナスの方が上回り、結果としてトータルリーチが減少すると報告されています。
ストリーミング広告へのアロケーション比率は20〜30%とやや幅が広いですが、これは米国のリニアTVとストリーミングのCPM(表示1,000回あたりの広告単価)が、ほぼ同水準であることで算出しやすくなっていると考えられます。国内でも同様の調査や試算(提案)が早期に望まれますが、テレビCMのCPMが比較的安く試算されることが多く(テレビCMの本当の価値の評価方法に問題があると考えている)、また、そのCPM換算の基となる例えばスポットCMの「%コスト(パーコスト)」の算出基準がそもそもわかりずらいことで、最適なアロケーション比率を試算することは難しいものとなっていました。さらに、デジタル広告では基本的に全国統一単価であるCPMが、テレビCMでは放送エリア毎(全国32地区)に基準も単価も一律でないことが、これまでの広告予算のアロケーションを複雑化していました。
しかし今後、国内でもストリーミング広告のリーチシェアがもっと高まり、例えば、FAST(広告付き無料ストリーミングTV)などが登場したり、SVODの広告付きプランによる「広告インプレッション」の視聴測定が可能になってきたりすると、このアロケーション(最適配分)は「テレビCM×ストリーミング広告」で行えるようになってきます。その際、本レポートのような先行する米国でのテレビ視聴インサイトの分析事例などがより役立つことになってくることでしょう。
最後に、Effectvの「調査結果まとめ」をご紹介して、今回のブログを終えたいと思います。
2023年上半期の調査結果まとめ
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リニアTVは未だ広告キャンペーンに不可欠
マルチスクリーン・キャンペーンの広告リーチの77%はリニアTV(従来のテレビ)
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ストリーミング広告でのリーチシェアは増加
ストリーミング広告だから可能なリーチシェアは9%から13%に増加
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リーチの高いキャンペーンには共通戦略が見える
最もリーチの高いマルチスクリーン・キャンペーンには、リーチを最大化するいくつかの戦略的共通点が存在
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ストリーミング広告はリニアTVでは届きにくいリーチに貢献
ストリーミング広告のインプレッションは、テレビをあまり観ない世帯と全く観ない世帯にリーチする可能性が4.6倍
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ストリーミング広告のアロケーション比率がリーチを最大化
キャンペーンへの投資比率の20~30%をストリーミングに割り当てるとリーチがピークに到達
*原文からの翻訳はプログラマティカにて行い、当社としての解釈および注釈などを加えてご紹介しています。なお原文を入手されたい場合は以下リンクからご確認ください。
Source:Effetv 「The TV Viewership Report 1H 2023」
Programmatica Inc.
Yoshiteru Umeda|楳田良輝