It always seems impossible until it’s done.
FAST を知る〜 広告付き無料ストリーミングTV とは

FAST を知る〜 広告付き無料ストリーミングTV とは

拡大した FAST 市場

米国で急速に成長してきた FAST (Free Ad-supported Streaming TV)は、従来からある AVOD(Advertising Video On Demand)のように視聴者が選択したコンテンツを「最初から観る(再生する)」のではなく、リニアTV(従来のテレビ放送)と同様に 現在放映している番組をリアルタイムに視聴するストリーミングサービス です。AVODは「広告型動画配信サービス」と国内で表されることが多いのですが、 FAST は「広告付き無料ストリーミングTV」、つまりインターネット経由で観るテレビ放送みたいなモノなんだなぁ、と考えていただくとひとまずはわかりやすいでしょう。

FAST(Free Ad-supported Streaming TV)しかし、FAST サービスには無料ストリーミング(リニア)とAVOD(オンデマンド)の2つの形式が混在し、AVODがないFASTサービスはほとんどなく、逆に FAST がないAVODサービスがいくつか存在しているのが実状です。 では、何をもってFASTと呼ぶのか?その定義は何なのか?それもまだ明確ではないというのが現下の状況となっています。

ですが、米国で利用可能な FASTチャンネル は2020年の550チャンネルから2021年は1,000チャンネルに、さらに2022年には1,500チャンネルを超えたといわれ*1、2023年になっても新たなチャンネルの開設は後を絶ちません。また、それらのチャンネルを取りまとめる主要なプロバイダーも Pluto TV、Tubi、The Roku Channel など数多く存在しています。2022年7月にComcast Advertisingが公開した FAST に関するレポート「多くの広告主(と消費者)が FAST へ向かっている理由*2では、 FAST利用者は前年比2倍となる成長で、すでにコネクテッドTV利用世帯の6割に及ぶと報告されています。
*1 複数のFASTサービスで利用可能なチャンネルの重複を除く(総数では2022年で約4,000チャンネル)
*2 Why More Advertisers (and Consumers) are Going F.A.S.T.(Jul. 2022)

このレポートで引用されている FreeWheelの「Video Marketplace Report(H2 2021)」は、デジタル広告視聴総数をデバイス別にみるとコネクテッドTVが63%と圧倒的で、テレビ画面での視聴合計は77%に到達したとしています。さらにeMarketerの調査では、ストリーミング広告費は2022年に191億ドル(約2.5兆円)、2024年には300億ドル(約4兆円)近くになると見込んでいます。このような状況の中で、コネクテッドTV利用者の多くが今後も「FAST」に向かえば向かうほど、広告主からの期待もさらに高まっていくことでしょう。
* CTV63%、STB VOD14%、Mobile10%、Desktop13%

Comcast Advertising「Why More Advertisers (and Consumers) are Going F.A.S.T.」

今回は FAST とは? FAST サービスにはどのようなモノがあるのか?などを独自に整理してご紹介していきます。ただし、現時点でFASTの全てを網羅することはとてもできそうにないため、この投稿は適宜更新・誤認修正などを行なっていく前提で進めていきます。ご了承ください。

 

FAST titlle

 

FAST に関する簡易アンケート&集計結果

広告付き無料ストリーミングTV

FAST 」は、2018年12月にTVREV社が公開した記事内において、初めてその言葉が使われました。TVREVは、2015年にロサンゼルスで設立されたテレビおよびメディアに関する少数精鋭のアナリストグループで、元エージェンシー幹部であった共同創業者兼リードアナリストのAlan Wolk氏によるウィークリーレビュー「Pluto TVがヨーロッパをディスカバリーする」で新たなストリーミングサービスのカテゴリーとして紹介がなされています。当初は「Free Ad-supported Streaming TV Services」と呼び「FASTS(あるいはFASTs)」と略されています。
*2018年12月1日付のPluto TVによる Discovery Channel コンテンツの追加と、欧州でのサービス拡張を紹介する記事内が最初。また、同社・同氏が翌年の2019年1月1日に発表した「2019年の近未来展望〜(12の)大胆予測」前編6個のうちの4番目「FASTSがさらに加速する」としても再登場する。

日本国内のテレビCM量と比較しても、決してCMが少ないとは言えない米国のリニアTV に対し、コンテンツ途中やコンテンツ同士の合間に流されるCM量を抑え目にして、当時のNetflixやAmazon、Huluがラインナップに加えないような1980〜90年代を中心とする(2000年代前半くらいまでの)少し古いヒット映画や名作ドラマシリーズなどに重点をおき、ニッチな市場を新たに開拓していきました。FASTという言葉がまだなかった2014年からサービスを開始していた「Pluto TV」がその先駆者的な存在です。AVODを含み「ビデオオンデマンド」は、番組編成や放送時間に左右されることなく「好きなモノを」「好きな時に」観ることができるのが特徴のひとつですが、元々はそれと真逆にあった FASTは「少し時代遅れなサービス」だと、開始当初は考えられていました

 

Pluto TV
FAST の先駆者的存在である「Pluto TV」のライブTV番組表 *FASTの番組表の多くは縦スクロールがチャンネル、横が時間となる

しかし、近年ケーブルテレビ契約をコードカット(解約)して、ストリーミングのサブスクリプションサービスに流れていった視聴者の多くが、俗にいう「サブスク疲れ」を起こし、世界的な不景気も重なり、「広告付きだけど無料で観られる」このストリーミングTVを受け入れていったことで人気に火がつき、急拡大していきました。ParamountやFoxが FAST プロバイダーの買収に乗り出したり、NBCUniversal(以下、NBCU)などが新規参入したりと FAST はここ数年で一番熱い市場となっていました。急激な成長からはやや落ち着いた感はあるものの、未だ注目度が高いことに変わりはありません。

ただ、今回参考に読んだ米国の記事の中で「FAST を知らない人にとっては、通常のテレビと同じように無料のコンテンツを観ることができる」と説明がなされているものがありましたが、実際に FAST を視聴してみると完全にそうとは言い切れません。ストリーミングサービスである以上、リニアTV(例えば地上波)のようにリモコンでパッパッとチャンネルを切り替えて、観たいコンテンツ(番組)がすぐさまテレビなどの大画面に現れる訳ではないからです。そこは「通信」なのでバッファリング(データを読み込んで溜めること)のための待ち時間が少なからず存在します。

国内でもTVerやNetflixなどを利用されている方は、黒い画面の中心で矢印がグルグルと回る、あのイメージが頭に浮かぶのではないでしょうか。最近の新しいテレビ端末のリモコンには各ストリーミングサービスへダイレクトに飛べる「ワンボタン」がたくさん連なるのが流行りですが、それでも何らかの待ち時間は発生するため不便に感じることも少なくないでしょう。
*大リーグ中継などが観られるMLB公式の「MLB.TV」では、矢印の代わりに野球ボールがグルグルと回るのが愛らしく、待ち時間のストレスがやや少ない(個人的感想)

<参考> 米国ではケーブルテレビとストリーミング、あるいはストリーミングアプリ間において(FASTだけでなく)、シームレスな視聴体験の提供は「今後のテレビ」を考える上で重要な課題だとされています。2023年2月のCNBC特集記事「3年後のテレビはどうなる?米国の著名業界関係者らが予測する*」でもその辺りが少し取り上げられていますので、もしご興味がある場合は下記のリンクや投稿もご覧ください。
*CNBC「What will TV look in three years?These industry insiders share their predictions」(Feb.7, 2023)

3年後のテレビ、米著名業界関係者の予測(後編)

国内でも無料のストリーミング視聴機会は増加

地上波や衛星(CS/BS)などの「放送」の優れた点のひとつは、その「待ち時間」が基本はないことです。実際には地上デジタル放送の場合、送信側で圧縮された伝送データが視聴端末側(通常はテレビ受像機)で解凍されて各画面に映し出されるまでに、最大数秒の遅れが生じることがありますが、「低遅延」であるためそれを体感することは少ないでしょう。ザッピングしても常にある程度の許容範囲でパッパッとコンテンツ(番組)を観ることができます。ですが、それを差し引いても FAST 、 広告付き無料ストリーミングTV は多くの点で大変便利な、家計的にもありがたいサービスのように思えます。
*例として、NHKは地上デジタル放送では「時報」を出していない(地域や世帯の端末により遅延時間が異なるため)

国内では、2022年4月から正式に始まったTVer*1の「リアルタイム配信」や、W杯やWBCで利用者が急増したABEMA*2のいわゆる「テレビ放送」は FAST とは呼ばれませんが、ある意味、FAST にも相当する最新のストリーミングサービスなのかも知れません。(ただし、TVerのリアルタイム配信は現状ではゴールデン/プライムタイムのみで、コネクテッドTVのアプリでは利用できない)
*1 民放在京キー局と在阪準キー局、大手広告会社が共同出資したTVer(旧プレゼントキャスト)が運営
*2 サイバーエージェントとテレビ朝日が設立したAbemaTVが運営

また、毎年受信料を納めているため追加料金負担なく、広告は当然入りませんが(例のNetflixの広告付きプランで起きた「朝ドラ」への広告挿入問題などは除く)、NHKプラスの「放送同時配信」もTVer同様にテレビ用アプリではリアルタイムな利用こそできないものの、逆に見慣れた形式の「番組表」をテレビ画面での視聴の際には表示してくれますので(あれ、スマホやタブレットでも同じようにして欲しい)、NHKオンデマンドのSVOD*1(定額制動画配信サービス)やTVOD*2(都度課金型動画配信サービス)よりも、このFASTに近しい視聴体験ができるサービスだと個人的には感じています。
*1 Subscription Video on Demand
*2 Transactional Video On Demand

テレビ端末で視聴することに限らなければ、ケーブルテレビサービスを提供するJ:COMなどは、追加料金なくスマホやタブレットのアプリで「リアルタイム放送」をストリーミング視聴することがそもそも可能です(もちろん、家のリビングではテレビ画面で視聴している)。ケーブルテレビは「放送」でも、ストリーミング視聴時は「通信」となるため権利処理関係の諸事情が異なるからか、CMチャンスにはなぜか?謎のイメージ映像やチャンネルロゴなどが無音声で流されますが、毎朝の日経CNBCのニュースや、シーズン中のご贔屓のプロ野球チームの試合中継などは、家のどこに居ても、外出中でも大事な場面を逃さず観られるのでとても重宝しています。(もし、壊れたらおそらく次は買い換えないであろう)DVRに連動したスマホアプリ経由での地上波のリモート視聴機能も、1日中いつでも使えますので同じような便利さがあります。

そう考えますと国内でも、もっと多種多彩なコンテンツが広告付きでも無料のストリーミングで、従来のテレビ放送を観ている時のようにリラックスした視聴態度(リーンバック)のまま、大きなテレビ画面でも観ることができるのならわざわざ料金の高いケーブルテレビに加入してなくてもいいよなAVODのコンテンツも豊富なら有料のサブスク(SVOD)契約も少し減らしてもいいかなと思えてきます。もちろん最終的には何が観られるのか?が視聴者にとっては重要ですが、米国を中心とした現在のFAST人気が少し理解できるような気がしてきます。

 

FAST人気を誘うリーンバックな視聴体験

leanback_FAST

スマホでニュースやSNSを覗いてみたり、少し別なことをしたりしながら(例えば、好きなお菓子でも食べながら)気軽にテレビを観る「Lean back experience」(リーンバックな視聴体験)は、SVOD視聴時のようなLean inあるいはLean forwardと呼ばれる「夢中になって観る」「じっくり観る」とは異なる、FASTの人気を誘うこととなった視聴者欲求であるといわれています。モバイルデバイスには向かないという見方もあるようですが、「ストリーミングの未来は、広告なし、有料、オンデマンド」が常識だとまだまだ考えられていた時代に、Pluto TVの共同創業者兼CEOであるTom Ryan氏は視聴者の「インサイト」をリニアTVでの視聴体験の中に見出していたようです。実際に2014年頃のRyan氏のチームでは「リニアチャンネルが持つ力」を信じてPluto TVのサービス開発を行っていったことがメディア記事などでも紹介されています。

この10年程の間、NetflixなどのSVODを中心として予算をふんだんにかけた、高品質なプレミアムコンテンツ(例えば、初期の「ハウス・オブ・カード」のような)が、オリジナルで雲霞のごとく制作される「Peak TV」(ピークTV)*1 と呼ばれるテレビ黄金期を迎えていました。それが、2022年を頂点として徐々に変化を見せつつあります。代わりに来るのは「Trough TV」(トラフTV)、つまりテレビ暗黒期*2だといわれているようです。

そのきっかけを作ったのがFASTなのか、それを支えることになるのがFASTなのかはわかりませんが、FASTがより注目されるようになったことは間違いありません。(トラフTVは、国内でもニュースになることがあるSAG(全米俳優組合)とWGA(全米脚本家組合)のストライキの影響も受けていると考えられる)

*1 有料テレビチャンネルFX Networks(Walt Disney傘下)会長であるJohn Landgraf氏が2015年頃に生み出した言葉
*2 source:Slate.com「Peak TV Is Over. Welcome to Trough TV.」(Mar 5, 2023)The Slate Groupは、Graham Holdings(旧Washington Post)から2015年にTelevisaUnivision傘下 

 

日本からでも視聴可能な「PLEX」

「いつでも無料」「世界中で利用可能」を掲げるPlexのFASTサービス

参考までに、とりあえず先に FAST を試し見してみたい、と思われる場合は、「Plex」がVPNなどを介さなくても日本国内からもアカウント登録とコンテンツ視聴が現状でも可能*1です。コネクテッドTV以外にもスマホアプリやPCなどにも対応しており、日本語設定もすでに選択できるようになっています。米国仕様と日本国内からでは視聴できるチャンネルに若干差がありますが(特にMusicチャンネルなど)、逆に挿入されるCMは日本向けにまだローカライズされていないので、手軽に「リアルなFAST視聴体験」をしてみるにはちょうど良いかも知れません*2。ただし、アカウント登録およびコンテンツ視聴などはご自身の意思と責任範囲の中で行うことを事前にご了承ください。なお次のリンクは、アフィリエイトリンクではありませんのでご安心ください。https://www.plex.tv/
*1 2023年5月17日時点で確認
*2 PCでのアクセスが簡便だが、AmazonのFireTVなどからアプリ経由で視聴するとその操作性などの感覚も体験できる

 

まず FAST を知る

さて、調べていきますと米国で FAST と呼ばれているサービスの範囲は意外と広く、冒頭でも少し述べましたように、全てが完全に広告モデルのリアルタイム視聴だけという訳でもないようです。プロバイダーによっては、課金をしないと観られないコンテンツが多く含まれていたり(そもそもクレジットカード登録しないとサインアップさえできないサービスもある)、FAST の特徴であるリアルタイム視聴は当然ありますが、オンデマンドのコンテンツの方がメインに見えるようなサービスもあったりします。「 広告付き無料ストリーミングTV 」という言葉だけでFASTを理解したつもりになっていると、そのサービスの中身は千差万別です。では、どこまでが FAST と呼ばれているサービスなのでしょうか。

 

タイプ別のストリーミングサービス(FAST/AVOD/SVOD)

*一部のプロバイダーのみを参考表示

comcast
Source: Comcast:”Free Ad-supported Streaming TV ” Report(Jul. 2022)

このComcastの一覧ではFASTの代表的なプロバイダーとして、Comcast傘下のXumo(Xumo Play)とPeacock、それ以外にPluto TVTubiFreevee(AmazonのFAST)が紹介されていますが、そのうちPluto TVPeacockはAVODにも掲載されています。世界中で利用者が多いYouTubeはAVODに含まれます。SVODには国内でも馴染のあるNetflixhuluDisney+、AmazonのPrime Videoがありますが、PeacockはSVODでも登場しています。

 

FASTサービスの利用開始時の説明画面

*PeacockとVIZIO(WatchFree+)の例

前述のTVREVは「FASTは新たなケーブルテレビ」というレポートの中で、FASTを含むストリーミングサービスをビジネスモデルと配信方法から下図のように再整理しています。このレポートでの FAST の分類は実にシンプルです。「無料」か「無料でないか」のビジネスモデルで区分しています。つまり、完全な無料サービスなら FAST、定額制サービスはSVODとしているのです。そして、それぞれのビジネスモデルは「リニア」と「オンデマンド」の2つの形式(配信方法)でさらに分けられるとしています。
*TVREV:FASTs Are The New Cable(Jan. 2023)「Part1エコシステム編」と「Part2 広告編」の2つのレポートで構成される

たしかに、リニアからスタートした FAST もあれば、立ち上げ当初はオンデマンドに力を入れていた FAST もあり、現在では FAST サービスのほとんどはAVODも提供している実状は前述しました。かたやSVODも同様で、本来はオンデマンドが主流でしたが、PeacockParamount+Discovery+ などの主要なSVODがリニアチャンネルも提供し始めていますし、その他にもライブニュースなどを追加しているSVODも増えつつあります。

2022年後半にはNetflixとDisney+が広告モデルにも参入しました。また、大型スポーツ中継の権利取得に積極的なAmazonAppleは共に広告付きのスポーツライブ中継を行っていますが、AmazonはすでにFASTサービスまで展開しており(Freevee)、逆にAppleは現時点ではAVODも、FASTも保有していません。しかしAppleは、独自に広告配信用インフラを元々整備しているため、NetflixやDisney+のように広告技術パートナーを見つけるための長い時間や巨額な費用などをあまり必要とはしないでしょう。おそらく求めるのは、広告サービスの経験に長けた、豊富な人脈を持つキーパーソンです。2023年2月にLauren Fry氏を「Head of Video Ad Sales」として招聘しています。「Appleが2023年中にApple TV+への広告モデル導入を検討中」とのニュースも徐々に現実味を帯びてきています。
*クロスメディア広告プラットフォームSimulmediaの元CRO(Chief Revenue Officer)

結局、SVODにも広告付きSVOD(ad-supported)広告なしSVOD(ad-free)が存在しています。広告軸で分けない、FAST を理解する上でとても参考となる整理です。「広告のある、なし」よりも、「無料か、無料でないか」の方が視聴者(消費者)にとっては重要な違いなのです。

 

TVREV
Source:TVREV「FASTs Are The New Cable」(Jan. 2023)

 

米国のFASTランドスケープ

大手メディアが持つ「 メディア企業系FAST 」には、ParamountのPluto TVFoxのTubi、Comcast傘下であるNBCUのPeacock、さらにComcast公式のXumo Playがあり、Walt Disney、Netflixなどは FASTサービスを保有していませんWarner Bros. Discovery(以下、WBD)は、2022年8月のQ2決算説明会において「FASTサービスの検討は行っているが、参入は新たなSVODサービスを開始した後になる」と説明していましたが、2023年1月にRokuとTubiのそれぞれとWBDの FASTチャンネル を開設することを先に発表しています。そのTubiはWBDブランドの14のFASTチャンネルと、225以上のAVODタイトル(計2,000時間以上)をすでに公開しています。
* NetflixやDisney+と競合しているSVOD「HBO Max」と「Discovery+」を統合して新サービス名称を「Max」とすることを2023年4月に発表、同年5月から開始

また、コネクテッドTV用デバイスやスマートTVのメーカーが保有する「 OEM系FAST 」 には、 Freevee(Amazon)、The Roku Channel(Roku)、WatchFree+(VIZIO)、LG Channels+(LG)、Samsung TV Plus(Samsung)などがあり、さらにPlexCrackle Plusのような「 独立系FAST 」も存在しています。

YouTubeは本家本元のAVOD以外にも、SVODの「YouTube TV」においてリニアチャンネルをすでに展開していますが、「Movie&TV(映画と番組)」プロパティ内で広告付きのリニアチャンネルを数社(と一部のユーザー)とテストしていることが2023年1月に複数のメディアで報じられています。そう遠くない日に、YouTube(Google)のFASTサービスも開始されると考えられます。
*名作映画やドラマなどプレミアムコンテンツのAVODはすでに開始している(国内未開始)

 “YouTube Is Experimenting With FAST Channels”(YouTubeがFASTチャンネルを実験中)
Source:The Hollywood Reporter, Adweek,TechCrunch, The Wall Street Journal etc. 

(追記)Googleは、2023年4月11日(日本時間4月12日)に「Google TV」内に800超の無料リニアチャンネル(FASTチャンネル)の開設を発表。

Google TV Free Channel
Google TVに800以上のFASTチャンネルが1つのライブTVガイドとして集約(Source; Google Blog)

 

Variety Intelligence Platform(以下、VIP+)の「米国のFASTランドスケープ」も参考にしつつ、独自の取捨選択も加えて主なFASTサービスをご紹介していきます。

 

FAST Landscape
Source:VIP+「米国のFASTランドスケープ」(2022年10月時点)

 

主な FAST サービスの紹介

pluto tv

Pluto TV

  • 2013年8月 ロサンゼルスで設立
  • 2014年3月 ベータ版を立ち上げサービス開始
  • 2019年1月 Viacomが3億4,000万ドル(約375億円)で買収発表
  • 2020年10月 新たに設立されたViacomCBS Streaming(現Paramount Streaming)の一部門となる
  • 18カテゴリー/約350チャンネル
  • MAUは約7,900万人
    *Paramount Global傘下。旧ViacomCBSから2022年2月に社名変更。ViacomCBSは2006年に一度分社したViacomとCBSが2019年12月に再統合した
tubi

Tubi

  • 2014年4月 サンフランシスコで設立
  • 2020年3月 Fox Corporationが4億4,000万ドル(約485億円)で買収
  • 2020年10月「News On Tubi」でライブストリーミング・チャンネルを追加(FASTを開始)
  • 世界250プロバイダーから約40,000コンテンツ
  • 約210チャンネル
  • MAUは約6,400万人
  • スーパーボウルLVII(2023)でのCMが話題となる> 参考動画
  • 2023年3月 視聴測定などでVideoAmp、LiveRamp、Comscoreの3社と提携
roku

The Roku Channel

  • Roku Inc.が運営するストリーミングサービスで2017年9月に開始
  • RokuはAnthony Wood氏の「6番目」となる事業会社で、元々はLLC(有限責任会社)として2002年10月にサンノゼで設立
  • テレビ端末でストリーミングサービスを視聴できるデジタルデバイスの草分け的存在
  • 2007年当時、Netflixの副社長も務めていたWood氏は、Netflixから約600万ドルの出資を受けRoku Inc.として再スタート
  • CTVデバイス開発はNetflixと共同で進めていたが、Netflixが独自のデバイスを持たないことを経営決定したため(他サービスとの競合回避)、Roku Inc.はNetflix傘下から分離独立化され、2008年5月に最初の「Rokuデバイス」を単独発売
  • 2017年9月にNASDAQ公開企業となる(コード:ROKU)
  • CTVデバイスの製造販売(近年はドングルが主流)、アプリ提供に加え、広告事業なども行っている
  • 約340チャンネル

参考:2023年1月のCES2023*1でRokuブランドのスマートTVを2ラインナップ発表(CTVデバイスからテレビ端末へ組み込む潮流対策*2
*1 CTA(全米民生技術協会)が主催する世界最大のテクノロジー見本市
*2 CTVデバイスでの視聴測定の精度面に問題がある。競合社のテレビ端末市場の参入などにも対抗している

freevee

Amazon  Freevee

  • Amazon1990年からあった映画やテレビなどのデータベースサービスIMDbをもとにして2019年1月にIMDb Freediveとしてサービス開始
    *IMDbは1998年にAmazonが完全子会社化
  • 2019年6月 IMDb TVへブランド変更
  • 2020年後半よりオリジナルコンテンツ制作も開始
  • 2022年4月「Amazon  Freevee」に再リブランド
  • 約130チャンネル
  • FreeveeのコンテンツはPrime Videoのユーザーにシームレスに表示されるが、Prime Videoユーザー以外でも利用可能
  • New Fronts 2023でAmazonは、Prime VideoのオリジナルコンテンツをFreeveeに広告付きで登場させることを発表
    *プレミアム動画コンテンツの先行販売イベント(リニアTVの「アップフロント」のデジタル版)

参考:2021年10月にAmazonブランドとして初のスマートTV「Amazon Fire TV Omni Series」発売(Rokuに先行して発売)

peacock

Peacock

  • 2020年7月 米4大テレビネットワークのひとつであるNBCを運営するComcast傘下のNBCUによってサービス開始
  • NBCのロゴマークにちなんで「孔雀」(Peacock)と命名された
  • 無料広告付き、プレミアム、プレミアムプラスの3階層でサービスが構成される
  • 有料会員数は約2,000万人
  • 約50チャンネル

参考:2019年5月にNBCUが33%保有していた「Hulu」の支配権を放棄したことで、Huluは実質Walt Disneyの完全子会社となり、NBCUのコンテンツは各社との契約切れを待ってPeacockへ移行することになった
*株式譲渡は2024年1月以降にWalt Disneyに対して実施されることが決定している

vudu

Vudu Fandango

  • 2004年からVuduBoxとしてVC援助などを受け開発
  • 2009年高解像度でダウンロード可能な初のサービスを開始
  • 2010年2月 Walmartに買収される(買収金額約1億ドルといわれる)
  • 2020年4月 映画チケット販売サービスなどを行うFandango Mediaが買収(金額非公開)
  • Fandango Mediaは NBCUが75%、WBDが25%を保有する
  • 登録者数6,000万人以上
  • 24,000タイトルと8,000のテレビ番組
xumo play

Xumo Play

  • 前身となるXumoは2011年にViant TechnologyとPanasonicの合弁会社として設立
  • 2020年2月 Comcastが両社から買収(金額非公開)
  • 2022年4月 ComcastはCharter CommunicationsとのJVに出資、同年11月にJV部分をXumoに、ストリーミングサービスは「Xumo Play」としてリブランド
  • 約300チャンネル
sling free stream

Sling Freestream

  • Dish Networkの完全子会社であるSling TV LCCが運営
  • Dish Networkは大手衛星放送プロバイダーで、その親会社であるDISH Network CorporationはNASDAQ公開企業(コード:DISH)、S&P500構成銘柄
  • 2015年2月 有料ストリーミングサービス「Sling TV」を正式サービス開始
  • 2023年2月 無料視聴の「Sling Free」を「Sling Freestream」にリブランドしてサービス強化
  • 約210チャンネル/41,000タイトル以上に
vizio watch free

WatchFree+

  • VIZIOのSmartCastプラットホームで、Pluto TVを利用した無料ストリーミングサービス「WatchFree」を2018年8月に開始
  • VIZIOは2002年設立ニューヨーク証券取引所(NYSE)公開企業(コード:VZIO)
  • テレビセットや音響システムの製造販売以外にもテレビ視聴データや広告事業など行っている
  • 2021年8月「WatchFree+」にリブランド、12月にAVODを追加するサービス拡張
  • WatchFree+はログインおよびサブスク契約なしで利用可能
  • 約260チャンネル、6,000以上の映画&テレビ番組(ニュース、スポーツ、音楽など)
plex

Plex

  • 2009年12月 Plex Inc.として設立(創業は2008年)
  • 2020年からFASTサービス開始
  • 完全無料、世界中で利用可能(日本語対応あり)
  • 個人で作成したライブラリーを友人などと共有できる
  • グローバルユーザーは2,500万人以上
  • 約310チャンネル(ライブTVチャンネル)
  • 50,000タイトル以上(オンデマンド)

今回ご紹介している「FAST を知る〜 広告付き無料ストリーミングTV とは」は、追加更新をしているうちに文字量がかなり多くなってきましたので前半と後半に分割することにしました。後半では「FAST を知る②〜 主なFASTサービスの状況」として、FASTプロバイダー&FASTチャンネルの実例(Pluto TVの350チャンネル一覧など)、現在の利用状況や市場規模、今後の予測などをデータやグラフも交えながら、また今後の課題についてもご紹介しています。

 

Next >> FAST を知る②〜 主なFASTサービスの状況

 

 

最終更新日:2023年5月17日

Image Photos Source:Pluto TV / Tubi / Amazon Freevee / The Roku Channel / Xumo Play

 

Programmatica Inc.
Yoshiteru Umeda|楳田良輝

 

「FASTを知る」PDF版レポート 8/31まで

 

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FAST に関する簡易アンケート&集計結果

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