2023アップフロントが始まった。
この冬クールの国内テレビドラマは、なかなか俊作ぞろいだなと嬉しく思っているのですが、残念ながら視聴率はあまりふるわないようです。私は地上波のリアルタイムとタイムシフトはもちろん、TVerもコネクテッドTV、PC、タブレット、スマホをフルに活用して全曜日何かしらのドラマ鑑賞を楽しんでいるのですが、 視聴率 を上げるということは本当に難しいことなのですね。しかし、個人だろうと世帯だろうと、もはや視聴率だけでコンテンツの良し悪しを価値を評すること自体が、視聴の断片化が進む現下の状況にそぐってないのだろう、とあらためて強く感じています。米国での 視聴測定 の課題には、「リニア、ストリーミング、デスクトップ、モバイルの4スクリーンでの重複排除された測定」が真っ先にあげられていますので、国内でも早々にそうなることは間違いなさそうです。しかし、視聴率が良いドラマには面白いモノが多いというのも、また事実のような気がします。
さて、その米国では「2023アップフロント」がそろそろ始まってきています。ディズニーは、例年より1ヶ月ほど早く「Disney Tech & Data Showcase」を開催し、広告事業で先行するHuluだけでなく、2022年12月から広告付きプランを開始したDisney+もテコ入れ、プログラマティック取引と測定を強化する方針を明確に示しました。また、広告販売事業の50%を自動化することを以前から目標にかかげていますが、広告運用部門をはじめとする7,000人規模のレイオフも先日大きなニュースになりました。NBCユニバーサルは、今週行われた「NBCUniversal’s One23 Conference」において、同社の認定測定パートナーにVideoAmp社を新たに追加し、 ” Context Quality Index ” (コンテキスト品質指数)を導入することを発表しました。今後も、まだまだいろんな動きがありそうな今年のアップフロントです。以下がAdAgeが報じた2023アップフロントとニューフロント*の開催スケジュールです。
*ニューフロント:アップフロント(テレビ広告の先行取引)のデジタル版
UPFRONTS/NEWFRONTS CALENDAR 2023
Company | Date | |
Disney Tech & Data Showcase | Jan. 25, 2 p.m. | Virtual |
Magna Equity Upfront | Feb. 7-9 | New World Stages |
NBCUniversal’s One23 Conference | Feb. 8, 2 p.m. | Quorum by Convene |
A+E Networks | March 8, 12:30pm | Virtual |
AMC Networks | April 18 | Jazz at Lincoln Center |
FuboTV | May 3 | |
Peacock | May 4 | |
NBCUniversal | May 15 | Radio City Music Hall |
Disney | May 16 | North Javits Center |
TelevisaUnivision | May 16 | Pier 36 |
Warner Bros. Discovery | May 17 | The Theater at Madison Square Garden |
Netflix | May 17 | Paris Theater |
YouTube | May 17, 7 p.m. | David Geffen Hall at Lincoln Center |
Source:Advertising Age「TV UPFRONTS AND NEWFRONTS 2023 CALENDAR」2023.2.2
そんな中 CNBC が今週、次のような特集記事を公開しました。大変興味深い内容でしたので、前編・後編の2回のブログに分けてご紹介します。なお、ご紹介にあたっては引用元原文をプログラマティカで翻訳し、独自の解釈および注釈などを加えておりますのでご了承ください。
3年後のテレビはどうなる?
米国の著名業界関係者らが予測する
CNBCの特集記事では、米メディア業界のキーマン10数名に「3年後のテレビ業界がどのようになるか」の予測についてインタビューしています。例えば、Foxの元幹部だったPeter Chernin氏(現The North Road Company CEO)は、レガシーTVについて「衰退の一途をたどる。状況は悪化し、予算は削減される」と語っています。また、どの企業がストリーミングを支配するのか、スポーツやギャンブルなどのコンテンツがどのような役割を果たすのかなど、多くの見解が述べられています。その他には、どのような予測があるのでしょうか。注目すべきポイントを個々に考えながら見ていきましょう。
質問項目は次の6つとなっています。
- 3年後にレガシーTVは事実上消滅するのか?
- 3年後も確実に存在する主要なストリーミングサービスは?
- ケーブルのように、主要なストリーミングのバンドル(束ねる)サービスが登場するのか?
- ストリーミングの中心的な存在として、どこが優位に立つのか?
- ケーブル・エンタテインメント・ネットワークはどうなるのか?売却されるのか?閉鎖されるのか?それとも、これまでと変わらないか?
- 今は存在しない、テレビの標準となるものは何か?
序文
メディア業界は変化の真っ只中にある。ストリーミングが世界のテレビ視聴の主流となるにつれ、従来のケーブルテレビが毎年数百万人の加入者を失い続けることは間違いない。しかし、転換期のこの業界に何が起ころうとしているのか、まだわからないことは多い。CNBCは、過去20年にわたりテレビ業界で最も影響力のある意思決定者や有識者である10人以上のリーダーに話を聞き、彼らが今後3年間に何が起こると考えているのかを明らかにする。CNBCは各著名業界関係者に同じ質問をした。以下は、その回答の抜粋である。
3年後、レガシーTVは事実上消滅するのか?
Peter Chernin, The North Road Company*1 CEO:衰退の一途をたどるだろう。より状況は悪化することになり、(リニアTVへの)予算は削減されるだろう。台本のある番組*2は、ストリーミングに移行するだろうし、再放送も増えるだろう。だが、存在し続ける。ひとつ重要な問題がある。リニアTVの核となるのはスポーツの放映権であるが、来シーズンからのNFLの契約は、以前の2倍の値段となる。これは、番組予算をさらに圧迫することになる。NBAの契約も今年更新があり、おそらく2倍の値段となるだろう。つまり、最も注目されるスポーツコンテンツの価格は上昇し、視聴する世帯数は減少している。その結果、他のすべてが打撃を受けることになるだろう。
*1 マルチジャンルのテレビコンテンツ制作スタジオ
*2 Scripted programming(ドラマやコメディなど台本を使って制作される番組)
Kevin Mayer, Candle Media* co-CEO:あと数年しか残されていない。終わりに近づいている。決まった時間に視聴する必要のないエンタテインメントは、すでに終わっています。すでにストリーミングに大きくシフトしています。次は、テレビネットワークの台本のある番組が終わるでしょう。その必要性が無くなる。今後2、3年で終焉を迎えるでしょう。ESPNが最終的に “プラグを抜く時”(撤退する時) 、バンドルは事実上終わります。そして、それは比較的近いうちに起こるでしょう。リニアTVは最後の瀕死の状態にあるのです。
*Disneyの元幹部2人が2021年に立ち上げた新興メディア&制作会社
Barry Diller, IAC*1 chairman:リニアTVは死につつありますが、シンジケーション*2は衰退しても存在し続けるでしょう。こういうことの末路は、誰もが予想するよりもずっと長く続くものなのです。
*1 正式社名はInterActiveCorp。150のメディアブランドを傘下に持つインターネットメディア企業
*2 ネットワーク以外のテレビ番組の流通システム。日本国内での番組販売(番販)のような仕組みであるが、米テレビネットワークによる番組制作・流通の独占を抑制する目的で70年代にできた法規制により発達した。
Ann Sarnoff, former Warner Bros. chairwoman and CEO:リニアバンドルは3年後も間違いなく存在するが、加入者数は減少し続け、視聴者の平均年齢は確実に上昇し続けるだろう。ケーブルチャンネルの世界が、どのように変化していくかに関する “大きなXファクター”(特別な要因)は、スポーツと、スポーツにおいてストリーミングサービスが、どれだけ大きな役割を果たすかによるでしょう。スポーツの放映権の断片化はリーグにとっては良いことだが、消費者は混乱するだろう。熱狂的なスポーツファンはあらゆるものに加入して、例えどこであっても自分の観たいスポーツを見つけるだろうが、スポーツ広告ビジネスを牽引してきた、多数の人々にアピールし、エンゲージメントを保つという優れた点において、(スポーツの放映権の)断片化はリーグにとって、危うい綱渡りの状態も作り出しています。
Bill Simmons, The Ringer*1 founder:3年というのは短すぎる気がします。地上波ラジオやデジタルオーディオと同じような展開になるのではないでしょうか。5年前なら、ラジオはもうすぐ絶対に死ぬと言えたでしょうし、誰もそれに異議を唱えなかったはずです。しかし、ポッドキャスト、ストリーミング、TikTok、その他多くの競合が存在するにもかかわらず、ラジオは “まだ低迷したまま” です。広告市場が縮小し、広告がよりローカルになったとしても、まだ死には近くないのです。マイケル・コルレオーネが「ハイマン・ロスはこの20年間、ずっと同じ心臓発作で死にかけている*2」と語ったようなものです。それがラジオです。そして、リニアTVも同じようになる。ソニー・コルレオーネの死ではなく、ハイマン・ロスのような死が待っていることでしょう。
*1 2016年設立のスポーツ&ポップカルチャーのウェブサイトおよびポッドキャストネットワーク(現在はSpotify傘下)
*2 映画「ゴッドファーザーPART2」の中で、主人公マイケル・コルレオーネの最大のライバルであるハイマン・ロスは、心臓の持病で余命半年と言われたまま「20年以上も生き続ける」。逆に兄ソニーは、PART1において、車を運転中に暗殺者たちに襲われ「急死」する。
Jeff Zucker, former CNN president:存続し続けるだろう。明らかに今より契約者数は減るだろうが、ニュースやスポーツが存続させるだろう。
Richard Plepler, former HBO* CEO:リニアは明らかに未来の波ではないが、キャッシュフローではあるので、何らかの形でまだ生き続ける。
*ワーナー・ブラザース・ディスカバリー傘下の衛星およびケーブルテレビ局。「HBO Max」は2020年に開始した有料のストリーミングサービス。
Bela Bajaria, Netflix chief content officer:私が1996年にこのビジネスを始めて以来、人々は常にリニアTVの衰退について話してきました。確かに3年後にはパイが小さくなっているでしょう。しかし、リニアTVを見る人は非常に多く、特にスポーツやニュースはそうだ。小さくはなるでしょうが、なくなるわけではありません。
Kathleen Finch, Warner Bros. Discovery U.S. networks chief content officer:リニアTVは絶対になくならないでしょう。リニアTVのビジネスの規模と範囲を見ると、それは巨大なものです。人々は、今でもテレビの前にみんなで集まって観るのが楽しいのです。また広告主も、映画の公開や新車の販売など、テレビが大好きです。リニアTVのビジネスは長く続くでしょう。もちろん、人々の習慣は変化していますが、大規模で強固な利益率の高いビジネスです。リニアのもうひとつの重要な点は、多くのストリーミング・プラットフォームを支えるための資金的なエコシステムを提供していることです。私たちWBD*のグループでは、ネットワークに供給するために年間約4,000時間におよぶ膨大な量のコンテンツを制作しています。その多くはストリーミングで第二の人生を歩むことになります。ストリーミングのためだけにコンテンツに資金を供給するのは、少々難しいことです。しかし、私たちは両方から大きな収益を得ているので、リニアの視聴者にサービスを提供することができるのです。
* Warner Bros. Discovery
Byron Allen, Allen Media Group* chairman and CEO:リニアTVは非常に長い間、存在すると思います。様々なプラットフォームは、リニアの代わりにあるのではなく、追加的なものです。人々の行動やコンテンツを消費する方法において、私たちはより豊かな環境を作り出したにすぎません。産業革命が起こったとき、その原動力は石油とガスでした。今はデジタル革命で、コンテンツが原動力になっています。地方テレビ局は今後も存在し、大いに必要とされるでしょう。ローカルニュースは必要です。また、ABC、CBS、Fox、NBCの4大ネットワークは、今後11年間、アメリカを代表する文化であるNFLを放送することを確約しているのを忘れてはなりません。だから、スポーツはこれらのネットワークで見ることになるのです。ストリーミングだけでなく。この契約は、バンドルがしばらく続くことを物語っていると思います。
*1993年設立のメディア、コンテンツ制作、テクノロジーのグローバル企業
Wonya Lucas, Hallmark Media* president and CEO:私は、これがリニアの死だとは思っていません。そうではありません。リニアはまだ生き続け、繁栄し続けると思います。しかし、どのサービスが生き残り、どのサービスが生き残らないか、どのサービスがバンドルされるかという点で、多少の淘汰が起こると思います。みんなが自立性を持てるとは思いません。しかし、すべてのストリーミングサービスのコストをバンドルし始めると、ある時点でケーブルパッケージのコストと同じになると思います。
*メディア制作会社。親会社はHallmark Card(米国最古・最大のグリーティングカード)
Chris Winfrey, Charter Communications* CEO:事実上消滅することはないでしょうが、価格が大幅に上昇し、加入者も減ることでしょう。その背景には、スポーツの放映権料の高騰があります。NFLの放映権延長契約では、2023-24年シーズンから年間約2倍のコストが発生することになります。このコストは、ますます少なくなる加入者に割り振られ、コンテンツ全体のコストを押し上げています。しかし、今後3年間は、まだ余裕のあるユーザーがいるはずです。ただ、その規模はかなり小さくなり、価格も高くなるでしょう。いずれは、ビジネスの再構築が必要になってくるでしょう。
*ケーブルテレビや携帯電話サービスを行う電気通信事業者。ブランド名は「Spectrum」
3年後も確実に存在する主要なストリーミングサービスは?
Ex-CNN boss Zucker:Netflix、Amazon Prime Video、Apple、そしてDisney(Hulu、ESPN+、Disney+)です。5番目は残りの組み合わせになる可能性があります。HBO Max、Paramount+、Peacockです。
Jeff Bewkes, former Time Warner CEO:Netflix、Amazon、Disney、HBO Max。あとひとつは、あまり儲からないか、収支トントンくらいの瀕死の状態で推移しているかも知れない。
North Road’s Chernin:Paramount+、Peacock、HBO Maxの組み合わせはありえます。大手は、HBO以外は買いたくはないでしょうから。
IAC’s Diller:今も昔も支配的なストリーミングサービスはひとつだけで、それはNetflixだ。しかし、他にも多くのサービスが存在するだろう。
Jeffrey Hirsch, Starz* President and CEO:Disney、Netflix、Warner Bros. Discovery、Amazon。そして、もちろんStarzだ。
*ライオンズゲート・エンタテインメントが所有するプレミアムケーブルおよび衛星テレビネットワーク
Candle Media’s Mayer: おそらく、Apple TV+、Disney+、Netflix、Amazon Prime、Max*。Paramount+やPeacockは統合されるでしょう。もしかしたら、Starzのような小さなサービスと統合されるかもしれない。
* ワーナー・ブラザース・ディスカバリー傘下のHBO MaxとDiscovery+は2023年内の統合が予定されており、サービス名は「Max」となる可能性が高い
The Ringer’s Simmons:Hulu、Peacock、Paramount+が大きなストリーマーに飲み込まれる候補として挙がっていますが、どこがそれをするのでしょうかね?Appleも、Amazonも、Netflixもその必要はありません。HBOとDiscoveryは、6年間で2つの合併を経験したところです。Disneyは何かを買うというより、何を捨てるか?の可能性が高いようです。ですから、Comcastがとんでもない”浪費”でもしない限り、何も変わるとは思えません。従業員数が減り、オリジナルコンテンツも大幅に減るだけで、みんなまだ存続すると思います。
Netflix’s Bajaria:もちろん、Netflixです。Disney+は強力なライブラリーを持っています。他の多くのコンテンツも面白いでしょう。すでにShowtimeとParamount+は一緒になっています。HuluはDisneyに残るのか、それともComcastがそのシェアを買い取るのか?Warner Bros. Discoveryは、Discovery+とHBO Maxのままなのか、それとも他の会社と合併するのか?ストリーミングの状況には、多くの動きと変化があるだろう。
今回の前編はここまでとします。後編では、残りの質問への回答をご紹介します。
- ケーブルのように、主要なストリーミングのバンドル(束ねる)サービスが登場するのか?
- ストリーミングの中心的な存在として、どこが優位に立つのか?
- ケーブル・エンタテインメント・ネットワークはどうなるのか?売却されるのか?閉鎖されるのか?それとも、これまでと変わらないか?
- 今は存在しない、テレビの標準となるものは何なのか?
Source:cnbc.com「What will TV look like in three years? These industry insiders share their predictions」2023.2.7
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Yoshiteru Umeda | 楳田良輝