米テレビ広告ビジネスで「測定」が熱い。
前回の「個人視聴率からの考察(前編)〜コア視聴率〜」から少し時間が経ちました。後編では、テレビ評価の新たな指標となれるような整理を考えていましたが、なかなか難しい課題だなとあらためて感じています。もう少し多くのことを勉強・研究してみなくてはなりません。そんな中、前回の投稿とちょうど同じくらいのタイミングで、米国で以下のような "Look Book" が公開されました。
Look Bookとは、アパレル業界などではよく使用する言葉のようです。商品の詳細説明までは記載されないが、写真などを中心に構成される最新コレクションカタログのような意味合いだとか。米国のテレビ業界では常用語なのか、SNSなどに端を発する流行り言葉なのかはわかりませんが、一旦「概略書」的な意味合いだと私は解釈しました。でも、それもあまりピンと来ないので、そのまま「ルックブック」とカタカナで表記します。
NBCUniversal / NBCユニバーサル
Measurement Framework / 測定フレームワーク
Look Book V1 / ルックブック 其の壱
NBCユニバーサル(正式名称:NBCUniversal Media, LLC 以下、NBCU)は、言わずと知れた米国の商業テレビ、4大ネットワークのひとつNBC(その他はABC、CBS、FOX)を運営するメディア・エンターテインメントグループです。現在はケーブルテレビ・情報通信の最大手であるコムキャスト(正式名称: Comcast Corporation)が100%親会社となっています。そのNBCUから、米テレビ業界で今もっとも熱い議題とされている「測定」に関するひとつの指針がレポートとして公開されました。ご存知の方も多いと思いますが、2021年9月、米テレビビジネスの "基準通貨" とも言われていたNielsenがMRC*1からの認定を一時停止され、それに代わる基準が今後どうなるのか?が昨年からの大きな話題のひとつでした。これまでも「新基準の必要性」の議論は、毎年、季節の風物詩のように「アップフロント*2」のある3月〜5月頃に湧き出てきていましたが、今年こそは本腰を入れるのではないかと注目を浴びています。
*1 MRC: Media Rating Council(米メディア測定評議会)
*2 アップフロント: 毎年春先に行われる米国のテレビCMの先行買い期間(9月〜翌5月までのCM枠取引)
参考:細かなことですが、日本語においては「測定」と「計測」はやや異なる意味で使用されます。測定は重さや量、速度といったものを装置などを使い、ある単位を基準として数値化することを意味し、計測は同様に重さや量や速度などをはかりますが、それだけではなく、それを基になんらかの判断を下すという意味も加わるようです。今回の「Measurement」にその両方の意味合いが含まれているのかは定かでないのですが、今回のブログでは一旦全て「測定」に統一して表記します。
国内でも視聴データにもっと注目を
各メディアのアクチャル測定、特にテレビCMを中心としたキャンペーンなどの測定や視聴データの進化は、プログラマティカも長く追いかけてきていたテーマです。もう6〜7年程前にはなりますが、国内でもテレビ視聴データを提供する事業者がいくつか登場してきた際には、横並び評価というよりも、とにかく各所でのご説明や解説用に(テレビ視聴データというものを、特に広告主のみなさんに知ってもらうために)「一覧」に整理してみたことがありました。もちろん、NBCUのように関係各社にRFP(Request for Proposal / 提案依頼書)を送って回答してもらうなんてことはできませんでしたので、各事業者の資料や公開データなどを地道に集めて、ほぼほぼ独自に整理したモノでしたが...。
少し懐かしい感じもしますが、今回初めてブログで公開します。ただ、この一覧の情報自体はかなり古くなっていますので、当時どんな事業者があって、どこが何をしていたか?を示すことがここでの本意ではありません。また、テレビ視聴データが諸々進化してきた現状で、要らぬ誤解を招く内容となってもいけませんので、表側以外の詳細はマスキングしておきます。いずれにしても、当時5社の情報を集めるだけでもかなりの時間を要しましたし、想像以上に大変な作業だったなと記憶しています。それだけに、今回のNBCUの公開レポートは私にとっては大変興味深く、関係各位にとっても非常に価値のあるものだと思えてなりません。
とにかく今回、NBCUのルックブックを読んで感服しました。う〜ん、ここまでやらなばいかんのだな、と。しかも、これでもまだスタートラインとのこと。そんなNBCUの「測定フレームワーク・ルックブック」(勝手に概略書と解釈)の、さらに "概略" をご紹介します。
このルックブック其の壱は、116頁で構成されています。
イントロダクション
まずは、「イントロダクション」部分からのご紹介です。NBCUの効果測定および影響担当のエグゼクティブ・バイスプレジデントであるケリー・アブカリアン氏によって、次のような整理がなされています。
そして、利用可能な測定ソリューションの可能性を拡げるべく、NBCUは調査・評価に着手したと表明しています。
ソリューションカテゴリー別の測定事業者一覧
ルックブックでは、ソリューションカテゴリー別に測定事業者が分類されて一覧化されています。さらに後半では「オーディエンス測定」カテゴリーの測定事業者の最新状況が、各社からの個別回答として詳しく紹介されています。
まずは、「オーディエンス測定」
視聴測定の現況を理解するにあたり、まず必要なことは「オーディエンス測定」であるとルックブックには記されています。そして、それは広告主、メディア、業界団体としての総意であり、緊急性がより高いとも明言されています。以下に抜粋してご紹介します。
第1章:オーディエンス測定について
- 長い間、ひとつの通貨がTVエコシステムを支配してきた(代わるモノがなかった)
- 数十年、毎年何十億ドルもの取引に使われた通貨が今、変わろうとしている
- 問題は、どのような基準に代わっていくかである
- 測定の変革は、オーディエンス測定から始まり、エンゲージメントやエクスペリエンスへとつながっていくことになる
- 基準(指標)の再定義に向けて、8つの測定事業者(通貨候補)を検証・評価する
- そこでは、次の重要となる3つの問い(キーワード)が存在する
①アイデンティティ(ID/同一性)
②カウント(計数)
③クオリティ(品質)
測定事業者評価のための定義
- アイデンティティ(ID/同一性)、カウント(計数)、クオリティ(品質)を念頭において、測定カテゴリー事業者を評価する
- 業界初となる米国での「クロスプラットフォーム測定事業者の評価」のために検討すべき項目は、データソース、広告の識別、アイデンティティ、手法、レポート、配信スピードなど多岐にわたる
- そこで、分析・評価を進めやすくするために3つの領域に分類して「価値変数」と定義する
-
ソリューションの完成度
-
提供する能力
-
クロスプラットフォーム通貨への対応
この3つの価値変数を軸として、NBCUがオーディエンス測定カテゴリーの8事業者を比較してまとめものが次のグラフです。
オーディエンス測定カテゴリーの事業者比較
(測定事業者:605, Comscore, iSpot.tv, Nielsen, Oracle, Samba, TVSquared, VideoAmp)
前回ブログはこちら
評価のための「価値変数」と「25属性」
また、これらの価値変数からは、さらに「25項目の属性(価値要素)」を見つけることができ、それらは各社が "クロスプラットフォーム測定を進める準備" ができているのかを判断することに役立てられる、としています。
各社へのRFP(質問概略)
ルックブックの最終セクションでは、オーディエンス測定カテゴリーの8事業者の「個別回答」が紹介されています。各クロスプラットフォーム測定事業者の現況が、ここまで一同に公開された例はなかったのではないでしょうか。これも今回の透明性を意識した、関係各社の協力姿勢によるもでしょうし、やはり「測定」が大きな課題となっていることがよくわかります。以下、各社へのRFP(質問概略)の項目をご紹介します。
- 会社概要
- 提供する測定内容(5項目)
- 全世帯推計(全米)(3項目)
- アイデンティティ・ソリューション(同一性)(4項目)
- レポート内容について(19項目) *質問例を下記に掲載
- その他の注目すべき事項(5項目)
- MRCの認定状況(1項目)
iSpot.tvの個別回答例
ルックブック(オーディエンス測定カテゴリー8社の個別回答サマリー)
各社からの個別回答(詳細情報)を整理したまさに "ルックブック" が25属性分ありますので(全8頁におよぶ)、この部分だけでもかなり読み応えがある量になっています。私はドカっと機械翻訳に掛けてから、少しずつ調整しながら読み進んでみましたが、各社のスタンス、状況差が備にわかる内容となっています。全てを読了するのも大変かと思いますので、従来の基準通貨だった「Nielsen」と、NBCUが今回選択した代替通貨「iSpot.tv」(全国/全米対象)だけを比較しながら読んでみるのも良いでしょう。
なお、今回の出典・参照元であるNBCユニバーサルの「測定フレームワーク・ルックブック」の原本は下記からご覧いただけます。
Source: NBCUniversal「Measurement Framework Look Book V1」Feb 1, 2022
さて、日本でもテレビの評価指標が世帯視聴率から個人視聴率となったことで、少しずつ変化が見え始めてきています。"屋根カウント"(世帯)だけの時代から、"人ベース" で因数分解できるようになったことは、指標としての価値が一段と高まります。
しかし、米国のように元々(かなり以前から)、指標は個人で(個人レベルの測定を提供してない事業者もあるが)、率でなく実数で捉えてきたマーケットでは、リニアTVを含め、スマートTVやSTB(セットトップボックス)などの世帯ベースのビッグデータを個人データで補正して推量したり、その他の家庭内の複数デバイスや屋外のOOH(看板でなくモニターやビジョンのこと)も評価軸に加えたりして、それら全てを重複排除しながらいかに正しく評価するか、というところにすでに力点が向いています。
試しに「iSpot.tv」の個別回答を参考にしながら図解にチャレンジしてみましたが、たくさんあり過ぎて途中までで描ききれなくなりました*。米Nielsenの「MRCからの認定停止問題」や「OOHのデータが取れてないよ問題」も、こちらから見ると進んでいるな〜と思えてしまいますが、でも対岸の火事だと言っている場合じゃないよ、とも痛感させられます。
*後に修正版として完成(2022.11.30)
国内のテレビ周辺の話だけでいえば、地上波とTVerを含むCTVの統合測定はどこまで進んでいるのか?、タイムシフト視聴率は同一パネルにこだわり過ぎずスマートTVと繋げて見た方が、もっと多面的にコンテンツ価値を評価しやすいのではないか?、エリア別の視聴状況にもかなり差がありそうですし、特定セグメント層(濃い少数派)の視聴状況なども最小公倍数的に削られてきちんとカウントできてないのではないか?とか、いろいろと考えることがありそうです。OOH(DOOH)の視聴測定もまだあまり進んでないかも。いや、そもそも地上波の「CM視聴率」でさえ、まだ標準化できてないな...などなど。
やはり、せっかくの個人視聴率データなのに、"もう一度グシャッと丸めて" コア視聴率として評価するだけでなく、常に大都市圏だけを起点に物事を考えたり、デモグラでいつまでも一律に評価したり、長く続いた "GRPセールス" 神話崩壊(呪縛)に対する打ち手は?、そういうことに関心・危惧を持ちたいと考えます。もちろん、米国とは環境の違うこともありますから、「照猫画虎」とはならず、本質を見極めていけるようにしながらです。
ルックブックのご紹介で多くの文字量をとってしまったため、今回の「個人視聴率 からの考察(後編)」は、ここで終了といたします。テレビ評価の新たな指標となれるような考え方については、今回のNBCUの公開レポート、その他の米国での動きなども十分に参考としながら、アフターストーリー編、あるいは別タイトルなどにて再度整理を考えていきます。
今回のNBCUの「ルックブック」(個別回答&サマリー)部分の翻訳資料*(PDF8頁)にご興味ある方は、「お問い合わせ」よりご希望のご連絡をいただければデータで差し上げます。(個人・自社利用のみ/転売不可)
*情報量が多いため機械翻訳をしたものを日々調整中しています。お問い合わせの時期により翻訳バージョンが異なることがありますので、ご了承ください。
*翻訳資料の無料配布は2022年9月12日をもって終了とさせていただきました。すでにお申し込みをいただいている方には個別送付させていただきます。
*本稿は適宜見直し(加筆・修正)を行いますので、以前の情報から更新されている場合があります。
最終更新日:2022年9月12日
Programmatica Inc.
Yoshiteru Umeda | 楳田良輝