メインターゲットと「 周辺ターゲット 」
テレビCM は、世帯視聴率で長らく評価をされてきました。しかし、近年は個人視聴率が整備され、徐々にそれが主要指標へと変わってきています。ですが、まだその使われ方は「個人全体」を基準とする取引単位までにとどまっています。広告主の設定ターゲットが個人全体、つまりオールターゲットであれば問題はないのですが、多くの場合そうではありません。通常は何かしらのターゲットを設定します。そういった面ではターゲット効率を試算する各種データが整ってきており、CPM(1,000人あたりの視聴単価)や1視聴あたりの単価などは算出可能で、デジタル広告との効率比較などは可能となってきています。
しかし、テレビCM は設定するメインターゲット以外の「 周辺ターゲット 」(サブターゲット)にも到達します。逆にいうと、それらを除外することはできません。「メインターゲット以外はターゲットではない」という場合には当てはまりませんが、通常はメインターゲットのみという設定は少ないのではないでしょうか。常に何かしらの 周辺ターゲット も存在します。問題は、その際の 周辺ターゲット への到達を評価しないのか?あるいは、 周辺ターゲット をそのままメインターゲットに合算して評価してしまっていいのか?です。
おそらく両方共に間違いです。そこで「 総量評価 」が必要となります。総量評価とは、メインターゲットを1とした場合に 周辺ターゲット(サブターゲット) を1未満の係数で評価する考え方です。係数0はターゲット外となります。例えば、男性向け商品の場合は、女性群の係数は0です。(しかし、実際には男性向けでも女性にも何らかの係数を与えておくことをお勧めする)もちろん、デモグラ別にもっと細かな設定を行うことも可能です。図1に参考例を掲載します。
この時、総量評価の指標は%(パーセント)でなく、必ず実数をベースにしなくてはなりません(例えば人数など)。しかし、評価値の桁数はなるべく簡素にしておいた方が、経験上ではその後の比較の際にわかやすくなります。単位はありません。この総量評価をCM枠の評価やキャンペーンの効率性評価に加えることで、テレビCM のメディアプランや評価指標の精度は大きく向上するはずです。
テレビCM とデジタル広告のそもそもの違い
デジタル広告側でのターゲティングは少々異なります。デジタル広告ではほとんどの場合、何かしらのターゲティングを設定し広告配信を行いますが、それらは全てが設定したターゲットだけに配信されるわけではありません。ターゲティング精度には各社差がありますが、推量型DMPで約40%前後、精度が高いといわれるIDベースでも15〜20%程度はターゲット以外に配信されることになります。喫緊のプライバシー保護の問題を考慮すると、今後この精度が格段に向上していくとは考えにくいでしょう。
いずれにせよ、ターゲット以外にも広告が到達する点ではテレビCM もデジタル広告も同じですが、ターゲットボリュームで見た際や、 周辺ターゲット として評価を行えるか否かを加味すると、図2のように両者には大きな違いが生じます。ちなみに、テレビCM では「ターゲット含有(率)」という指標を使用することがあります。実は、これはデジタル広告でのターゲティング精度の評価と同じ考え方になります。
テレビCM の「本当の力」を再評価するために、プログラマティカでは含有率や効率論でない「実数で評価する指標」を提唱しています。テレビCM の未来に向けて、あらためてその価値指標の考え方を検討していきたいと考えています。現在、テレビCM はかなり過小評価されています。
実数で考えないと評価が歪む
国内の人口減少は大きな問題となっています。ゆえに、今まで通りの%(パーセント)に頼った効果計測や指標作りだけでは実態を歪めてとらえる危険性があります。例えば、30代男女のこの10年間の人口は全国で1,800万人から1,500万へ減少しています。仮になんらかの広告が100%リーチしたとしても、実数では約300万人も少ないということになります。したがって、効率性を見るための%は必要であっても、効果を見るためには実数を把握することが不可避です。
そして、この%だけに頼らないことには、もう1つ理由があります。それは、デジタル広告は全国均一単価であるが、テレビCM はそうではない、ということです。こう述べると「そりゃ人口の多い都市圏は高いし、地方は安いでしょう」と思われる方もいるかも知れませんが、そうではありません。CPM(1,000人あたりの視聴単価)、あるいは1視聴にかかる単価が全国で均一ではない、という意味です。
テレビCM の放送エリア別CPM
テレビCM の単価が全国(厳密には放送エリア毎)で異なるのには、テレビ放送の成り立ちや歴史的背景による必然性があるものも多いです。そこに異論はありません。ただ、長らく「世帯視聴率」と「%コスト(パーコスト)」という指標が使われてきたために、我々、テレビCMに関わる人たちが見落としてきたことではないでしょうか。
図3の比較は、全国の32放送エリアの標準的なCPMを我々の経験値を含め独自試算したものです。これを見ると必ずしも人口や消費の絶対量が多い都市圏の単価(CPM)が高く、そうでないエリアが安い、という構図にはなっていないことがご理解いただけると思います。もちろん、この単価比較の波動と自社商品の販売量や市場消費量が、全国で同調していれば何ら問題はありません。しかし、多くの場合は戦略的な投下比率とはなっていないようです。
テレビCM は、広告主のマーケティング予算のうち、非常に大きなシェアを占めるにも関わらず、これまであまり細かな検証が行われてきませんでした。いや、できなかったと言えるでしょう。だからといってきちんとした効果検証も行われず、テレビCMから離脱するのはもっと危険です。もちろん、テレビCMと比べ、デジタル広告側には多くの効果指標がすでにありますし、精緻な計測も可能です。テレビ側も若年層を含むテレビ未視聴層が広がっていることが課題となっていることも、また事実ではあります。
エリアアロケーションを考えてみる
エリア別のCPMを見てみると、テレビCM を使った方が効率的なエリアと、デジタル広告を使った方が良いエリアが明確に分かれる場合があります。これをターゲット別に見るとさらに差が広がることもあります。これまでテレビCM のバイイング方法には、あまり選択肢がなかったがゆえ、どうしてもテレビCMの補完にデジタル広告を使う、あるいはテレビCMの効率が悪いので(効果がわからないので)デジタル広告に特化する、というような判断をされていたのではないでしょうか。
今後はデジタル広告をメインに、SAS(スマート・アド・セールス*1)などを使ってテレビCM を補完的に使うことも十分に考えられます。最適なメディアプランは1種類だけではないです。特に、まず先にと「全国一律」でテレビCM とデジタル広告予算をアロケーションすることは避けた方が良さそうです。あらためて、広告予算のエリアアロケーション*2もご一考いただくことをお勧めします。