プログラマティック取引に向かうテレビCM
2020年2月に始まった「スマート・アド・セールス」(以下、SAS)。この視聴データを基にする新しいテレビCMバイイングの価値が広告主にも受け入れられるようになると、SASの需要は必ず高まるでしょう。しかし、需要の高まりは価格の高騰とも同義です。テレビCMは、民放連基準で「総放送時間の18%以内」*という上限があるため、その影響を特に受けやすいと考えられます。
参考記事
CM量ってどれくらいあるのか?
現状のSASの販売枠は、2カ月前からオープンとなり1カ月前で締め切られます。そのため、利用者側の経験値がまだまだ少ない現状においては、2カ月先の枠が具体的に見えてから、各社のプランニング作業が開始されます。しかし、データ分析が進めば、評価や実績により広告主が欲しい枠を事前に検討・抽出しておくことは十分可能です。広告主やメディアプランニング・パートナーは、それらを常にアップデートして、 SASのセールス解禁日には条件に合致するCM枠を真っ先に購入すれば良いからです。
ですが、各社が我先にとSASを購入するようになると、かつてのインターネット広告がそうであったように、枠の取り合いがおこりかねません。しかし、それを人的調整や手動入札で受付けることはもはや現実的ではありません。そこで、地上波のテレビCMでも「プログラマティック取引」が実現し、いずれ機械入札型にも進化するであろうと考えられます。
現行のテレビ放送方式や喫緊のプライバシー保護の問題もあるため、デジタル広告のように1視聴ごとの入札までは難しいですが、逆にデジタル広告と比べ枠数に限りがあるテレビCM*においては、RTB(リアル・タイム・ビッディング)を採用する必要性もあまり無いように思います。米国でもその領域はあまり進んでいないようです。そうなれば、テレビCMにおけるプログラマティック取引は日本国内でも早期に実現する可能性が高いでしょう。
*ひとつのテレビ局の1週間のCM本数は最大で約7,250本が上限(15秒換算)となる。スポットCMのみとするならば5,000本前後(全体の70〜75%程度)であり、デジタル広告のビッディング数とは比較にならないほど少ない。
プログラマティック取引とは、端的にいうとシステムを通じて広告枠を売買する仕組みです。デジタル広告の売買では主流となっており、広告主のニーズに応じて、オークション形式で枠を売買する場合が多くなっています。当然、ニーズが高い枠はより高額で買われる(売れる)ことになります。SASは、このプログラマティック取引をテレビCMでも実現するための第一歩といえるでしょう。
テレビCMのプログラマティック取引を予測する
プログラマティック取引はデジタル広告が先行しています。ゆえに、インターネット経由の動画配信サービス(OTT)のうち、広告型動画配信サービス(AVOD)に分類されるTVer(ティーバー)などは、コネクテッドTV(CTV/インターネットに接続されたテレビ端末)での視聴であっても、デジタル広告側のプログラマティック取引として区別して考えておく方が現段階では賢明です。というのも、「プログラマティックTV(PTV)」という定義は既にあり、ケーブルテレビやネットを経由したPTVの取り組みは海外では始まっています。しかし、通常のテレビCMにおいて、オーディエンスデータを使い、アドレサブルな個別広告配信まで行うことは、現状ですぐに国内でも利用できるとも考えにくいです。
そこで、今後プログラマティックTVへ向かうための、あるいは、それとは異なる進化をする可能性もある地上波のテレビCM枠のプログラマティック取引について、その実現予測を当社独自にまとめてみました。早期のテレビCMのプログラマティック取引は、海外での進化や、デジタル広告でのそれとは少々異なることになりそうだと考えています。
予測するテレビCMのプログラマティック取引では、現在のSASは左下の「通常セールス枠固定単価取引」にほぼ分類されます。基本的にオープン参加(ただし申請制)で枠単価は固定となります。セールス枠を事前に予約することはできず、オークションもありません。そして、新たに加わる取引形態が「予約型プレミアム枠オークション取引」「優先型プレミアム枠固定単価取引」、そして「直近セールス枠オークション取引」です。
予約型プレミアム枠オークション取引と優先型プレミアム枠固定単価取引は、その名の通り、プレミアム枠の購入に限定されます。参加できるのは過去にSASなどの取引実績がある優良広告主のみ。(ここで重要なのはエージェンシー単位でなく、広告主単位であること)予約型と優先型で異なるのは、予約型は現在のSASよりもさらに事前にオークション形式による申し込みが可能なことです。予約型・優先型は共に現在のSASやスポットCMでは買えないプレミアム枠や条件指定でCM枠購入が可能となることを特徴としてみました。
最後は、直近セールス枠オークション取引です。実はSASは現在でも、一部オークションによる売り枠、また直前枠と呼ばれる割引が加味された売り枠が出ることがあります。ここでの大きな変化となるであろうと考えるのは、この直近セールス枠オークション取引の中に、従来のスポットCMも包含されていくことになるのではないか、という予測です。
つまり、スポットCMで日時・期間で購入したい広告主は、この直近セールス枠オークション取引との相対取引で一定量のCM枠をバルクで買い付けていく。株式取引でいうところの時間外取引(PTS取引*)のような仕組みです。逆に、このオークションに参加する広告主は、すでに申し込みがあるスポットCMよりも高い条件でなければ落札することができません。以上が、プログラマティカ が現時点で考えるテレビCMのプログラマティック取引の予測です。
*PTS:「Proprietary Trading System」(私設取引システム)
また、テレビCMのプログラマティック取引が実現されることで、新たな利点もいくつか考えられます。このあたりは下記の日経クロストレンドの連載でご紹介していますので、そちらをぜひご参考にしていただきたいです。いずれにせよ、既存のSASも含め、さらに進化も加えて、プログラマティック取引が導入されていくことで、テレビCMの新たな需要を創出する救世主に必ずなれるだろうと期待しています。そろそろ「述べGRP」によるパーコスト(%コスト)売りだけに頼るのは厳しい時代となってきていると考えています。
以下の図は、SASにおける関東地区の%コストと視聴率(個人全体)での散布図です。SASもまだまだ始まったばかりで値付け(料金)も小慣れていない可能性は多々ありますが、テレビ局が各番組枠(CM枠)に相当であると考えている価格と、視聴率は常に正比例な関係とはなっていないようです。その必要もないでしょう。しかし、テレビあるいはテレビCMの価値指標は、もっと新たな基準も見出していかなかればなりません。
参考連載のご紹介
日経クロストレンド連載①「SASは救世主になれるか」
「SAS」について詳しくお知りになりたい方は
もっと広告主が SAS を活用したい理由
さらに詳しくお知りになりたい場合は、プログラマティカまでご相談ください。
Programmatica Inc.
楳田 良輝|Yoshiteru Umeda